マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
相手セカンドが困惑「えっ、セーフ?」大学生・周東佑京、セカンドゴロが余裕でヒットの“伝説”…WBCで世界が驚いたスピードスターの原点
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byJIJI PRESS
posted2023/03/31 17:25
WBC準決勝メキシコ戦。サヨナラ打を放った村上宗隆とサヨナラホームインした周東佑京が抱き合う
野球によくある小さなフットワークのピッチ走法じゃない。細身の長い足をしなやかに躍動させた大きなストライドで、グイグイ全身を進ませていく。スパイクの中の足の指を、地面にガシガシと食い込ませるようにしながら、確かな一歩一歩を蹴り飛ばし、見とれているうちに、ホームを駆け抜けてしまった。
3番で遊撃手。カウントを追い込まれるとバスターに転じて、転がして武器の快足を生かそうとするスタイル。決して、ミートだけの「当て逃げ」じゃない。体の前に力点を作って、詰まってもしっかり振り抜くスイングが、そのまま周東佑京の「将来性」に見えた。
セカンドゴロがセーフに「ウソだろう…」
周東がその後進学した「東農大北海道オホーツク」は、北海道の網走市郊外にある。
冬季は氷点下10度以下(最低気温)が何日も続く極寒の道東で、1年のうち、グラウンドで野球ができるのは、およそ半分だと聞いたことがある。
春とは名ばかりの3月。入寮するために飛行機でやって来る新入生たちは、着陸直前、窓から一面の真っ白い原野を見下ろして驚くという。
流氷押し寄せるオホーツク海を横目に、流れる汗が凍るようなロードワークは、雪と氷で滑る路面をバランスを取りながら走るから、心と体の両方を存分に鍛えられるそうだ。
だから、強い! そう言いきる関係者もいた。
東農大北海道オホーツクが属する「北海道学生野球連盟」には、旭川大、函館大、北洋大(旧・苫小牧駒澤大)など、北海道じゅうの大学チームが所属しているから、リーグ戦もそれぞれの所在地の球場に、お互いが遠征して試合をする。
私も網走の球場まで行くのは遠いので、東農大北海道オホーツクの試合を見るのはいつも、空港がある千歳に近い苫小牧の球場だった。
そこで、再び「周東佑京」のユニフォーム姿を見つけた時は、胸が躍ったものだ。