雪妃をタイトルマッチに指名した理由

　雪妃としては、昔の関係を蒸し返したいとは思わなかったし、蒸し返してほしくもなかった。スターダムからのオファーを受けたのは、アイスリボン時代からユニット「Rebel＆Enemy」を組んでいるラム会長、尾崎妹加と6人タッグのリーグ戦に出るためだ。“因縁のドラマ”を盛り上げるつもりはなかった。ジュリアからのタイトルマッチ挑戦指名も、一度は保留している。

　ジュリアにしても、雪妃と対峙すれば苦しかった過去、捨ててきたアイスリボンの新人時代を振り返ることになる。それは決して気持ちのいいことではなかった。

「でも、やらないと。私は自分の気持ちに嘘をつくプロレスはしたくないので。このタイトルマッチは、私が挑戦するようなもの。同じリングに（雪妃が）きた以上は無視するわけにいかないでしょう。私にはスターダムで築き上げたものがある。目障りなんですよ。向こうだって、私をまったく意識しないでこのリングに上がるはずがない」（ジュリア）

タイトルマッチはジュリアの“奇襲”からはじまった　©Essei Hara

奇襲に両者リングアウト…試合は荒れに荒れた

　試合は荒れに荒れた。ジュリアがゴング前の奇襲。場外戦からリングに戻ると、お互い激しく打撃を叩き込む。場外ではテーブル上でジュリアがパイルドライバーを決めると、雪妃もタイガードライバー。最後は赤いベルト戦史上初の両者リングアウト、引き分けでジュリアの防衛となった。

　延長・再試合を求めるファンの声にも、ジュリアは「するか、バーカ！」。おそらくここまでがギリギリの内容、ギリギリの結末だったのだ。試合を終えたジュリアは言った。

「挑戦者に指名はしましたけど、不安もありました。なにしろ信頼関係が1ミリもない相手だから。不安というか“試合として成立するのかな。お客さんにちゃんとしたものを見せられるのか”っていう、ある種の怖さがありました」

場外の花道でファルコンアローを決めるジュリア　©Essei Hara

　両者リングアウトという結果は、誰にとっても納得のいくものではなかった。しかし“そうなるしかない”と思えるくらい、2人は意地を張り合った。そこにジュリアの手応えもあった。

「いつもスカしてた雪妃真矢が、汚い感情をぶつけてきたなと。やっと人間らしさを見せた気がします。チラッとですけどね。チラッとだけど、初めてジュリアのことを認めたのかもしれない」

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