炎の一筆入魂BACK NUMBER
「本当は戦力になりたかった…」侍ジャパン歓喜の瞬間を無人のマツダスタジアムで迎えた栗林良吏が今季に期する思い
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/03/25 11:02
3月6日、強化試合の阪神戦が、栗林にとって日本代表としての最後の登板となった
所属球団から選手を預かる栗山英樹監督は、栗林の登録抹消を決めた。
「チームと一緒に、というのを模索しましたけど、ピッチャーということで場所が場所だけに無理させてはいけない。久々に苦しい決断をしなければならないという。彼の野球人生のために決断しなければいけないと僕は思った」
断腸の思いだったことは、会見の表情を見てもうかがえる。
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志半ばで、栗林は広島に帰ってきた。チームメートに託した思い、謝意、失意、無念……。抱えきれないほどの感情とともに。
「本当は、戦力になりたかった気持ちが一番です」
投げたくても、投げられなかった。悔しさは胸にしまった。栗林と電話で話をした新井貴浩監督は自然と口にした言葉に感心したという。
「彼が一番悔しいはずなのに、代わりに招集された山﨑(颯一郎)投手に申し訳ないと言っていたので、彼らしいなと」
悔しさと、嬉しさと
失意の中でも自分が前に進んでいこうとする覚悟は、米国で戦う侍ジャパンの姿と重なった。
準決勝メキシコ戦後には髙橋宏斗(中日)から「明日、一緒にがんばりましょう」というメッセージが届き、優勝の瞬間も20番のユニホームを掲げる大勢(巨人)の姿に胸が熱くなった。思いを託し、信じていた仲間の世界一を心から喜んだ。
ただ、心の奥にはどこか重たいものも残る。歓喜に沸いた日本で、そんな思いをしたのは栗林ただひとり。WBC決勝の9回と同じタイミングに行った投球練習は、悲しいほどのコントラストだった。
「悔しい気持ちは、今でも持っている。うれしい気持ちも、もちろん10割。みんなが喜んでいるシーンだとか、世界一の輪にいられなかった悔しさはもちろんある。悔しさを忘れるのではなく、原動力に変えていけたらいい。野球ができなくなるわけじゃないので、しっかり野球をやって、カープファンを含め、野球ファンのみなさんに明るいニュースを届けられるように頑張っていけたらいいなと思っています」
よどみなく紡いだ言葉はそのまま、前進する力になっていく。
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