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AZMvsキッドはなぜ「約束された名勝負」なのか?スターダムの元キッズレスラーによる王座戦のライバルストーリーと“アスリート能力”
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2023/03/26 17:00
再びハイスピードの頂点で邂逅したAZMとスターライト・キッド
互いが感じた「今までと圧倒的に違いました」
AZMが複合関節技ヌメロ・ウノを雪崩式で決め最多防衛記録を更新したこの試合。目立ったのは“切り返し”だ。どちらかが技を繰り出しても、そのまま決まることが極端に少ない。決まるのはディフェンスからの返し技。見る側としては、次の瞬間に何が起こるかまったく予想がつかない。
「初めて対戦する相手になら“初見殺し”が通用するけど、キッドには通じない。しかも凄く研究熱心ですからね。私もライバルとしてキッドのことが好きだからよく知ってます。お互い作戦を練りに練って、考え抜いての闘いになる。でもその上で、これからは直感で闘うのも大事になるでしょうね」(AZM)
フィニッシュは長岡大会と同じ。しかしコーナートップから決めるというバリエーションに「いつもと同じでは勝てない」というAZMの気持ちが表れていた。エターナル・フォーの切り返しもそうだ。
前回は投げられ、マットに落ちた瞬間にワキ固め。しかし今回は技をスカして見事に着地し、すぐさま反撃につなげた。
前回とは違う。そう思ったのはAZMも同じだった。
「キッド、今までと圧倒的に違いましたね。見て分かってるつもりだったけど、今日はそれを体感しました。徹底して足を攻めてきたんですよ」
キッドは昨年のAZM戦以降、「黒虎脚殺」という足関節技を開発している。今回はその技を軸にAZMを苦しめた。
「これまでの挑戦者は、私の動き、スピードについてきた。でも今回のキッドは足を攻めてきた。私に負けないスピードで動くんじゃなく、私を動けなくさせようとしたんです。凄くやりにくかった」
「もうハイスピードの枠に収まるものじゃなくなってる」
ハイスピード戦の魅力の一つは、自由奔放な動き。キッドはそれを殺そうとした。団体の頂点の座を争うタイトルマッチのような、いわば“重厚”な攻め方だった。試合後のキッドは言った。
「私たちの闘いは、もうハイスピードの枠に収まるものじゃなくなってる」
あらためて、キッドはハイスピード王座戦線から卒業。しかしAZMとのライバル関係は終わらない。
「やっぱりAZMは私のエターナル・フォー。生え抜きとしてキッズからやってきて、あらためてまだまだこれからだなって。AZMは私からハイスピードのベルトを奪って、私を相手に最多防衛記録を作った。ベルトの価値もずいぶん上がったんじゃないかな。それでも止まらないし終わらない。いずれ赤いベルト、白いベルトをかけて闘う時もくると思う。大会場のメインでね」
AZMはハイスピードのベルトを持ったまま、選手としてステップアップしようとしている。昨年、新設されたIWGP女子王座への挑戦も決まった。
「だって、ハイスピードは足かせじゃないですから。キッドとも違うベルトをかけて闘うことになるでしょうね。どんな試合になるか、どこまでやるのか……今から楽しみだし怖い(笑)」