- #1
- #2
プロ野球PRESSBACK NUMBER
「今でも鮮明に覚えています」WBC日本代表の守護神だった牧田和久38歳が忘れられない“あの1アウト”「予選ラウンド後の“燃え尽き”に要注意」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph byL)Yuki Suenaga、R)Getty Images
posted2023/02/28 17:00
日本代表の守護神としてWBC2大会を経験した牧田和久氏が語る
鮮明に覚えている「2次ラウンドのオランダ戦」
――ハイライトは2次ラウンドのオランダ戦だろう。日本代表・小久保裕紀監督は9回に牧田氏ではなく則本昂大(楽天)を投入。これが裏目に出て土壇場で6−6に追いつかれて延長戦に突入した。投げられるリリーフ投手が底を尽きそうな状況のなか、9番手で登板し延長10回を三者凡退。タイブレークで2点の援護を受けた延長11回もマウンドに上がりオランダ打線を無安打に封じた。
牧田 もうそれこそマジか?!と。投手はどんどんいなくなるし、タイブレークで一発出たら終わり。他の登板はあまり覚えていないのですが、延長11回のあの場面だけは、今でも鮮明に覚えています。無死一、二塁からのスタートだったのに、先頭打者のプロファーがなぜかバントをせずに打ち上げたんです。ラッキーだなと思いました。左で苦手なタイプだったので、嫌だなと思っていたところで、しかも投げたボールは逆球だった。それを簡単に打ち上げてくれて、ファーストフライでまず1アウト取ることができた。あれが大きかったと思います。
続いて、レッドソックスにいたボガーツもフルカウントの末にバットを折ってサードゴロ、4番のサムスがキャッチャーへのファウルフライでゲームセット。いつになく興奮していましたね。メジャーでゴリゴリやっている選手たちを抑えられた、という手応えは、その後のメジャー挑戦という夢にもつながりました。
――続くキューバ戦、イスラエル戦でも3試合連続で登板して決勝トーナメント進出。準決勝のアメリカ戦では登板がなく、日本は1−2で敗れた。ブルペンであの試合をどう見ていたのか。
牧田 結果的には負けましたけど、登板した先発の菅野(智之)と千賀(滉大)は凄いピッチングでした。あの日、なかなか雨が降らないロサンゼルスに雨が降ったんですよ。芝が濡れていて、名手の菊池(涼介)がトンネルしたり、松田(宣浩)さんのちょっとしたファンブルで点を失った。打線がなかなか点を取れず焦りからボール球に手を出してしまったり、連鎖反応でみんながどんどん消極的になっていった部分はあったのかなと思います。ベンチの雰囲気もちょっと暗いところがありましたね。
予選ラウンド後の「燃え尽き」には要注意
――予選を勝ち抜いた後、チームの雰囲気に何か変化があったのだろうか?
牧田 個人的にアメリカへの移動の影響は大いにあったと思います。第1回大会、2回大会は予選の第2ラウンドからアメリカでやっていた。2013年から日本で第2ラウンドまで行うようになりましたよね。決勝ラウンド進出を決めてワンクッション置くと、緊張感が一旦リセットされてしまうところがある。気が緩むわけではないんですが、予選ラウンドを勝ち抜いて少し燃え尽きてしまったような空気を感じていました。さらに、アメリカへ移動した後は時差の調整に加えて、気温、湿度の違いでボールの感覚が変わってくる。その調整の難しさはあったと思います。これは今回のWBCでも要注意の点で、日本での試合を突破した後、アメリカでもう一度緊張感を高めるという切り替えは大事になるかなと思います。
――2大会連続で出場し、抑えとして数々の修羅場をくぐり抜けた牧田氏が感じる「国際大会の怖さ」とは?
牧田 短期決戦は1球で勝負が決まってしまう。1つのストライク、1つのボールが命取りになるということです。ただ、それをネガティブに捉えるのではなく、緊張感をいかにプラスに変えられるかが大事だと思います。脳はコントロール室なんで、考えていることは体の動きに伝達されていく。いざ試合に入ってプレーする時になったら、マイナスをプラスに変えていく切り替えが大事だと思いますね。
〈続く〉
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。