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「武藤敬司はやっぱり油断ならねえ」蝶野正洋が明かす武藤とのデビュー戦から闘魂三銃士結成まで「グレート・ムタにやられたなって(笑)」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byShigeki Yamamoto
posted2023/02/21 11:10
かつて闘魂三銃士としてともに戦った蝶野正洋が、同期でありライバルでもあった武藤敬司について赤裸々に語った
「道場の応接間に3人掛けのソファーがあって、そこに入門した俺と武藤さんが座ってちょっと話をしていたら、あっそう言えばと知り合いの話題になった。黒のジャージみたいな服を着ていて、何かオッサンみたいなヤツだなとは思ったね」
のちに闘魂三銃士の一人となる橋本真也は1日前に入門していた。船木優治(現在は船木誠勝)、野上彰(現在はAKIRA)らも同期になる。ただ蝶野の認識としてはあくまで“競争相手”であって、仲間意識は希薄だった。かつ橋本とは洗濯をめぐって既にケンカを済ませている。
「ピラミッドの頂点に立つのは1人しかいない。つまり同期とはいっても結局は脱落ゲームだから。誰かが辞めていなくなるっていうのはむしろ歓迎でしかない。
スクワットをやらされて、500回追加されたときに武藤さんが急に“もうできない。もう辞めます”と座り込んだわけよ。俺はこれで一人いなくなったと思っていたら、(コーチの山本)小鉄さんが“おい、辞めるなよ”と引き留めた。おいっ、嘘だろって思ったね。あの人、練習についてこれないんじゃない。絶対引き留めてもらえると思って、スクワットを止めたんだと俺は今でも思ってる。カラダはデカいし、柔道の有段者で格闘技経験もあったから(見込まれていた)。そういう駆け引きは入門した当初からうまかったよ」
何度も「辞める」と聞かされていた。新弟子の一人と武藤がその気になって行動に移そうと誓ったが、道場を去ったのは結局一人だけ、とのエピソードもある。何食わぬ顔で食事をしていた武藤を横目に見ながら、「この人は純粋に信用しちゃいけねえ」と蝶野は警戒を強めていた。
「武藤さんが一番早くデビューすると思ってた」
入門から半年後、武藤と一緒にデビューするとはまったく予想していなかった。
1984年10月5日、「闘魂シリーズ」開幕戦となる埼玉・越谷市体育館大会の第1試合に武藤とのシングルマッチが急きょ組まれた。この2週間前に維新軍の長州力、谷津嘉章らが一気に新日本から離脱したため、デビューが早まったのだ。