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「迷わず行けよ、ユッケばわかるさ」アントニオ猪木が行きつけの焼肉屋で見せた“かわいい姿”とは? 病床で目を輝かせた“豚足秘話”も
text by
原悦生Essei Hara
photograph byEssei Hara
posted2023/02/20 11:01
アントニオ猪木が愛した麻布十番『一番館』の豚足。店主の江原静江さんは「猪木さんは豚足を焼いていました」と回想する
「何でもかんでも禁止にすればいいってもんじゃないんだ。フランスだって、イタリアだって生で出しているだろう、馬鹿野郎。衛生観念のない店で、安い肉を出すからそうなるんだ」
確かにフランスにはタルタル・ステーキというものがあり、これは生肉だ。決してタルタルソースを乗せて焼いたステーキではない。旅行者がこれを頼むと店員が、「生だけど大丈夫か」と念押ししてくる。ドイツでは豚肉でさえ、生の冷えたミンチをビールのつまみとして出してくるところもある。
2012年5月には、猪木がIGFのリング上で生肉を食らう怒りのパフォーマンスを見せたこともある。このとき使った肉は『一番館』から持っていったという。
「猪木さんは『ユッケが食べたい』と座ったまま駄々っ子のように両手をズボンの上で行き来させるんです(笑)。本当にユッケが好きなんだなあ、と思いました。『迷わず行けよ、ユッケばわかるさ』なんて怒りながら笑っていました」
『一番館』でもこれまでと同じようにはユッケが出せなくなり、「焼きユッケ」というスタイルをとることになった。鉄の器に乗った状態で出したものを、そのまま網に乗せて加熱する。
「気遣いの人」アントニオ猪木の素顔
猪木が頼んだメニューを、実際に注文してみる。チョレギサラダにキムチとカクテキ。キムチはミルフィーユのようになっている。猪木も「あれはいいね」なんて言っていた。
テール・スライスが音を立てていい感じに焼けていく。なんだか、CTスキャンの画像を見ているみたいだ。
そして骨付きカルビ。骨に近いところを猪木は好んだ。
「私が切っていると、『プロはうまいね』って。熱いままナプキンで手に取って、骨までしゃぶりついていました。おいしいうちに、焼きたてを食べたいんでしょうね」
猪木はタレに特製の辛味を加える。これはニンニク、醤油、油、唐辛子などでつくられたものだ。
「それをズッコ(田鶴子)さんが山盛りで入れると、『そんなに入れたら肉の味がわからなくなるよ』と猪木さんが苦笑していました」
猪木はマッコリの上澄みを好む。「ここが一番うまいんだ」と虎マッコリの上澄みを日本酒のように飲んだ。甘い生マッコリは、振って飲んでいた。
「振り方が悪いとシュワッと噴き出すので、私が『こうやって……』と脇でやったんです。そうしたら『俺にも振り方教えてほしいなあ』と視線を上げたんです。ちょっと間をおいて『女のフリ方を』って……。周りは苦笑していましたが、私は照れてしまいました(笑)」