一方、大谷にはもう一つの目標があった。それまで誰もなし得なかった「高校生での160キロ到達」である。当時、大谷はこんな話をしている。

「誰かが160キロの大台を超えれば、次に160キロを目指す人が必ず出てくる。野球はそうやってレベルが上がっていくものだと思います。野茂英雄さんがメジャーリーグで成功されて、日本人選手の目標が変わったように、目標レベルが高まることで、野球のレベルが上がる。僕はそれを果たしたかった」

　大谷は自身のピッチングを高い完成度までまとめられなかった分、規格外の数字を目指し、それを実現したのだった。

メジャー席巻の大谷を藤浪はどう見た？

「春夏連覇のエース」と「160キロのエース」。

　高校卒業時点で、どちらがすごいのかと聞かれて、即答できる人は多くなかったはずだ。プロ入団後は、2年目までは藤浪がリード。3年目からは大谷が追い上げ、前人未到の域に突き抜けていったというのが現状だろう。

大谷翔平　©Nanae Suzuki

　藤浪にとって、大谷がメジャーに挑戦したことがどれほど大きな影響を与えたかは想像に難くない。高校当時は「メジャーには興味がない」と言い切っていた藤浪も、「考えが変わる日が来るかもしれない」と言っていたのも、また事実だった。

「メジャーなんて、僕にはとんでもない夢です。僕は今のところ、興味はないですね。ただ、ダルビッシュさんは高校の時はメジャーに興味がないと言ってたみたいで、日本で野球を極めてしまうと物足りなくなるのかなとは思います。でも、それは、そこまでのレベルに行けたらの話です。常に、向上心をもつこと、課題を見つけることを忘れずにいたい。WBCやオールスターで、この選手すごいなと思ってもらえるようになりたい」

藤浪は前回WBCにも出場した　©Hideki Sugiyama

4年前に聞いた“メジャーの藤浪評”

　藤浪の昨年度の成績ではメジャーに挑戦するには物足りない数字と言えるかもしれない。

　それでも、開幕投手やオールスター、WBC出場も果たした藤浪は、高校時代に描いていた目標のいくつかは達成している。そして何より、メジャー側からの評価が高かったことも藤浪の背中を押した要素と言えるだろう。

【次ページ】　大谷と同地区球団に移籍の奇縁