- #1
- #2
格闘技PRESSBACK NUMBER
54歳の現役格闘家・大石真丈はなぜ戦い続けるのか? “格闘技界の仙人”に聞く波乱万丈の30年「途中でやめたら、ただのアホなんで…」
posted2023/02/04 17:01
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph by
Susumu Nagao
「右のパンチがくるのが見えたんですけど、眼球にパンチをもらってからは一方的にやられました。内容が悪すぎて……。正直ショックで、死にたい気分でしたね」
大石真丈の直近の試合は、2022年11月に後楽園ホールで行われた。開始早々、パンチを受けた大石はすぐにタックルを仕掛けるが決まらず、グラウンドで下になる。寝技でのパウンドや肘打ちを受け、最後は腕十字を完璧に極められてギブアップ。2分26秒の間、彼が攻め込むシーンはほとんどなく、いいところがまったく出せないままに終わった試合だった。
それでも、大石の頭に“引退”の二文字はない。
「俺を使ってくれるなら、どこのリングでも試合をしますよ」
54歳のMMAファイターはきっぱりとこう言った。髪には白いものが目立つ。というよりも、ほとんど総白髪だ。しかし、その口ぶりはどこまでも若々しかった。
「試合をやるからには、勝つことしか考えない。負けること考えてリングに上がるやつはいないでしょ」
10年以上前に「これで引退だろう」と思ったが…
90年代初頭から現在に至るまで、カメラマンとして数え切れないほどの格闘技の試合を撮り続けてきた。撮影方法はフィルムからデジタルに変わった。大石は、フィルム時代から私が撮影を続けている数少ない選手の一人だ。
1993年に修斗でプロデビューした大石は、2022年まで毎年試合に出場している。人呼んで、日本格闘技界の鉄人。あるいは仙人。64戦31勝24敗9引き分けというキャリアは、輝かしいというよりも、彼の頭髪と同じようにいぶし銀の光を放っている。
それは私が大石の試合を撮影した10年以上も前のことだった。精彩を欠いた内容で、判定負け。試合後の彼の表情や年齢を考えると、これを最後に引退するのだろうと勝手に想像していた。2001年に修斗のベルトを腰に巻き、その後もZST、CAGE FORCE、パンクラスと日本の主要団体で40試合以上も戦ったのだから、もう充分だろう、と。