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格闘技PRESSBACK NUMBER
「練習で高校生にボコられることも」「ロシアで酷い目に…」54歳の元修斗王者・大石真丈が、それでも総合格闘技を“やめられない”ワケ
posted2023/02/04 17:02
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph by
Susumu Nagao
それは2014年12月22日のことだった。クロン・グレイシーのデビュー戦の前日、計量を待つ我が子を見守るヒクソン・グレイシーから、こう言われた。
「残念だけど、私が試合をすることはもうない。引退することにした。長年にわたるトレーニングで、体中に怪我がある。それ以上に……」
彼は自分の心臓を何度か叩いてみせた。ヒクソンが言いたかったのは、「戦う気持ちになれない」「モチベーションがなくなった」ということだと私は察した。
「練習したら、絶対に試合がしたくなる」
遅かれ早かれ、プロのアスリートがいずれ直面することになる“引退”という現実。54歳の現役MMAファイターである大石真丈も、昨年11月に後楽園ホールで喫した無惨な敗戦のあとに「もうやめてもいいのでは」という“もう一人の自分の声“が聞こえたという。
それでも大石は格闘家であることをやめなかった。いや、「やめられなかった」と形容したほうが正確かもしれない。長く現役を続ける秘訣について問うと、即座に「ブランクを作らないことですね」と答えが返ってきた。
「お正月の前後で丸2週間練習を休んだら、再開したときにキツかった。ランニングをしただけで、ふくらはぎとハムストリングスが痛くて(笑)。もし1年、2年と休んだあとに試合をしようと思ったら辛いでしょうね。俺が試合を続けられるのは、コンスタントに練習を続けているから。練習したら、絶対に試合がしたくなる。こればかりはもう、どうしようもないですね」
大石へのインタビューで驚いたことがある。彼は20年以上も前のことを鮮明に覚えており、対戦相手の特徴や自身の戦績だけでなく、他の選手同士の試合内容まで正確に諳んじてみせたのだ。語り口もきわめて明瞭で、パンチドランカー的な症状はまったく見受けられない。身体的な頑強さは天与の才のひとつと言えるだろうが、彼がこの年齢まで現役を続けることができる要因の一端を垣間見たような気がした。