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藤井聡太五冠「▲4五歩の王手」、羽生善治九段「▲8二金」が勝負を分ける好手だったワケ…棋士視点で王将戦第2・3局振り返り
posted2023/02/02 11:01
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by
日本将棋連盟
「平成の王者」の羽生善治九段(52)が「令和の最強者」の藤井聡太王将(20=竜王・王位・叡王・棋聖を含めて五冠)に挑戦している、第72期ALSOK杯王将戦七番勝負。羽生は第1局で敗れたが、第2局で勝って追いつき、シリーズは大いに盛り上がっている。羽生の第2局での戦いぶり、北陸の古都の金沢市で行われた第3局の模様などについて、田丸昇九段が解説する。【棋士の肩書は当時】
第2局:羽生は藤井の連続王手を読み切っていた?
羽生九段は角換わりの将棋になった王将戦第1局で、藤井王将に一方的に攻められて完敗した。第2局は1月21、22日に大阪府高槻市「摂津峡花の里温泉 山水館」で行われた。
戦型は相掛かりとなり、羽生は先手番の利を生かして積極的に指した。1筋から仕掛けると、飛車を左に転回して飛車交換を迫った。次いで飛車を敵陣に打ち、角を中段に打って猛攻した。そして、控室の棋士たちを驚かせたのが、中盤で▲8二金と打った第1図の部分局面。
▲8二金のような単純な手は「芋筋」と呼ばれ、プロ棋士はあまり指さない。しかも相手玉から離れている。しかし、次に▲7二金△同金▲5二飛と金取りに打つと、▲3二銀の詰みが生じる。さすがの藤井も、その対応に56分も苦慮した。
羽生は以後も攻め続けた。終盤では藤井に△7七銀から△7八飛と迫られたが、▲4六歩で自玉の逃げ道を作ってから▲6九銀と打って冷静に受けた。そして、藤井の10手連続の王手を際どくかわし、△6八飛成に▲4八香の合駒でしのいで勝った。▲4八桂の合駒だと詰んでいた。
羽生は終局後「最後も怖かったんですけど、詰まなくてよかったなという感じです。ひとつ結果が出て、ちょっとほっとしています」と率直に語った。詰将棋の解読力が抜群の藤井に王手を続けられて、平静であるはずがない。
しかし――羽生は、ある棋士に終盤の連続王手について後日に問われると、▲6九銀の時点で、▲4八香の合駒で詰まないと読み切っていたという。
羽生の師匠・二上九段の《タケゾウ》を想起させるような
羽生の師匠の二上達也九段は、若手棋士時代の羽生を、剣聖と謳われた宮本武蔵になぞらえ「いずれは《タケゾウ》(若き日の呼び名)から人間としての《武蔵》になることを願うが、当分はタケゾウで結構。大いに暴れてほしい」と語ったものだ。羽生は敗れると苦境に立つ王将戦第2局で、なりふり構わず猛烈に攻めて勝った。まさに《タケゾウ》を彷彿するようだった。