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藤井聡太五冠「▲4五歩の王手」、羽生善治九段「▲8二金」が勝負を分ける好手だったワケ…棋士視点で王将戦第2・3局振り返り
text by
田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2023/02/02 11:01
王将戦第3局2日目の封じ手開封の瞬間。羽生善治九段に対して勝利した藤井聡太王将が2勝1敗としている
王将戦では、勝者が「コスプレ」姿を見せるのが恒例。羽生は以前に、フェリーの船長に扮したり、ドジョウすくいを演じたり、砂浜に王将の駒を書いたりした。
羽生は2016年以来の勝者の記念写真で、昨年から走っている市営バス「高槻将棋ライナー」の運転手に扮した。運転席に座って「発車します」と声を上げ、右人差し指を前方に突き出した。2024年秋には高槻市に新・関西将棋会館が完成する予定。市は「将棋のまち推進課」を新設して将棋の普及に力を入れ、前記のバスには著名棋士の写真がラッピングされている。
過去の王将戦では「豪雪」でルールが変わったことも
王将戦第3局は1月28日、29日に石川県金沢市「金沢東急ホテル」で行われた。1勝1敗で迎えた北陸の古都での対局は大いに注目された。
ただ心配されたのは、日本海側を襲った寒波だった。金沢も雪が連日にわたって降っていた。冬の季節に行われる王将戦のタイトル戦では、悪天候によるアクシデントが稀に生じた。
谷川浩司王将に中原誠前名人が挑戦した1994年の王将戦第5局は、青森県三沢市のホテルが対局場だった。中原と関係者の一行は、羽田空港から三沢空港に向かったが、大雪のために三沢に着陸できず、羽田に引き返す事態となった。谷川は関西から搭乗し、三沢に無事に到着していた。
そして、棋戦関係者で協議した結果、各8時間の持ち時間を各5時間に短縮し、王将戦史上で初の1日制で行うことに決まった。中原らは翌日に三沢に到着した。勝負は中原が勝った。
渡辺明王将に郷田真隆九段が挑戦した2015年の王将戦第5局は、新潟県佐渡市の旅館が対局場だった。過去2回の佐渡での対局は平穏に行われたが、15年は日本海が暴風雨と荒波に襲われ、新潟港から佐渡の両津港に向かうフェリーが悪天候で欠航となった。
そして、棋戦関係者で協議した結果、対局者らの一行は新潟市で宿泊し、天候が回復した翌日に佐渡に向かった。対局は1日目の午後1時30分に始まり、各8時間の持ち時間を各7時間に短縮した。勝負は渡辺が勝った。
今年の金沢市での王将戦第3局では、雪は断続的に降っていたが、対局者らの一行は対局場に無事に到着した。
第3局:雪の金沢で羽生の構想を破った藤井の一手
愛知県出身の藤井は「雪は地元にあまり降らないので、雪を見て楽しみたい」と語り、窓外の雪景色に何度も視線を送った。
実は、藤井はお天気キャスターの森田正光さんと以前に対談したときに「晴れ、曇り、雨の中で、好きな天気は?」と聞かれると、意外にも「雨が好きです。落ち着くから」と答えた。金沢で見た雪については「テンションが上がる」と語ったという。
羽生は後手番の第1局で「1手損角換わり」の手法を用いた。第3局では「雁木(がんぎ)」という指し方を採った。
雁木は江戸時代に創案された古い駒組み。その後、昭和時代に流行していたが、平成時代に入ると廃れてしまった。しかし、AI(人工知能)を搭載した将棋ソフトが雁木を用いると、プロ棋士に再評価されて近年の公式戦でも見かける。羽生は雁木を用いた理由について「まだ未解決の部分もあるかなと思って指してみました」と語った。