すると、熱血漢の指導者は頭ごなしに抑えつけることはなく、『そこまで言うならやってみろ』と花崎の話を聞き入れてくれたのだ。とはいえ、激しく衝突することもあった。3年目を迎えた夏前の夜、ささいなことから寮内が騒然となるほどの怒鳴り合いに。きっかけは、花崎が購入したゲーミングチェアだった。腰痛持ちだったため、リモート授業にも活用するつもりでいたが、大八木監督は納得しなかった。

騒動の発端となったゲーミングチェアを現在も使用

「それなら、やってやるよ」と売り言葉に買い言葉になって…

「ヒートアップして、競技の話になったんです。10000mのタイムトライアルで僕が自己ベストを出したばかりのときでした。いまならすぐに謝っていますが、あのときの僕はとんがっていたんでしょうね。『あんなタイムは誰でも出せる。これくらいのタイムで走ってみろ』と言われたので『それなら、やってやるよ』と売り言葉に買い言葉になって、最後は『よし、やってみろ。見ているからな』と」

　そこから負けん気が強い花崎のハートに火がつき、普段の取り組み方からガラリと変えた。同期や仲の良い先輩たちと一緒に走ることはなくなり、駅伝の単独走を見据えて、ほとんどの練習を一人でこなした。気合を入れる日には、良き理解者だった先輩の吉村から教えてもらった多摩川のコースを黙々と走り続けた。

「大口を叩いたので、絶対に結果を残してやると思っていました。タイムも持っていなくて、駅伝経験もない選手でしたから、ハングリー精神がないとやっていけません」

©Nanae Suzuki

体重を落とさんと、使わんぞ

　80分のロード練習を課されたときは90分以上走った。汗まみれになって練習場に戻り、大八木監督へのアピールも忘れなかった。山下りのタイムトライアルで結果を残し、3年目の箱根駅伝は6区の最有力候補になっていた。12月下旬に差し掛かる頃、練習終わりにストレッチをしていると、後ろから力強くバンと両肩を叩かれた。

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