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「突然、心臓が20分間止まって…」世界的クライマー・倉上慶大35歳が死にかけた朝「気づいたら救急車」命かクライミングか…医師とのバトル
text by
寺倉力Chikara Terakura
photograph byMiki Fukano
posted2022/12/31 17:10
プロクライマー倉上慶大。国内の最難ルートを次々に完登するなど、世界のクライミングメディアから注目される。2021年10月に心肺停止を経験、そこから復帰した
倉上 ICUでは携帯電話も使えませんし、コロナだから面会もできません。ただ、手紙のやり取りはできました。妻もけっこう調べてくれたのですが、「運動誘発型」というのがネットで検索してもなかなか出てこないようで、「なんだかわからないけど、とにかくあなた、たいへんみたいよ」と手紙で知らせてくれました。そうして入院4日目に家族への説明があったんですよ。
――ご家族はどんな反応でしたか。
倉上 僕ら夫妻のほかに、自分と妻の両親も呼ばれて、6人を相手に先生が説明してくださいました。先生は家族からも説得してほしいと思っていたようですね。最初、妻は除細動器を入れてほしいと言ってました。命が優先で、命がなければクライミングだってできないでしょうと。もっともな話です。でも、最終的には妻を含めた家族全員が、僕の選択に同意してくれました。
――ご両親まで同意したというのは意外でしたね。
倉上 簡単に同意してくれるとは思っていなかったのですが、「いや、息子が決定したことなら、それでいい」と言ってくれたんです。そのとき僕は胸が一杯になって涙が止まりませんでした。
――倉上さんがクライマーになっていった頃から、ご両親はある程度、覚悟を決めていたのかもしれませんね。リスクの高いスポーツだけに、息子に万が一のことがあってもおかしくないと。
倉上 う~ん、そうかもしれませんね。実はそのあたりの話は両親とちゃんと話し合ったことはありませんし、話し合うことでもないような気がしています。自己責任というのが基本ですし、このあたりの価値観は人それぞれだとは思います。でも、先生は相当驚いていましたよ。「えっ、これだけリスクが高いことをご説明しているのに、どなたも止めないんですか?!」って。
――医師の狼狽ぶりが目に浮かびます。
倉上 人の命を守ることが先生の仕事ですし、医師としての使命感も理解できます。だから、自分の覚悟を手紙に書き、それで最終的に僕の考えを理解していただきました。「私たちもあなたの覚悟を受け入れます。それならこの先、病院でできることはなにもありません。明日で退院です」と。そうして病院を出たのは、心臓が止まってから5日目のことでした。
<続く>
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