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「曲から遅れるのは覚悟でした」全日本王者・宇野昌磨が打ち明けた驚きの計画「自信をつける、つけないという所にもう僕はいない」
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byAsami Enomoto
posted2022/12/27 17:18
全日本フィギュア選手権、圧巻の演技で優勝を果たした宇野昌磨
「今、どうしたらよいかを短時間でしっかり考え、自分をコントロールできました。一番力を抜いて跳べる方法を模索した結果です。今日できる最大限を出来たと思います」
満足そうにそう語った。
得点は100.45点で、2位に12点以上の差をつけての首位発進。しかし反省もあった。
「本番でどう跳ぶか。それをずっと考えていました。プログラムに気持ちが入ったかというと、そうでもなかったです」
すると、その演技をステファン・ランビエルコーチも同じように感じていた。ショートの後、中1日の公式練習で「ジャンプばかりになっている。もっと昌磨は演技を出来るはずだ」と言われたのだ。
「NHK杯の後にも言われた言葉がショックだったんですが、また言われて。ちょっとショックで……」
ステファンコーチに「練習態度」で反論
宇野はそう打ち明ける。NHK杯後には、公式練習での態度を見て「以前のほうがもっと高みを目指していた」と言われており、今回も、演技の手を抜いていると言われたのだ。すると真っ向から反発するのではなく、ちょっとお茶目に「練習態度」で反論した。フリー朝の公式練習で、35分間のうち32分間、まったくジャンプを跳ばずに、コレオシークエンスやステップの練習をもくもくと続けたのだ。
「ステファンに対して『これでいい?(笑)』みたいな意思がありました。ただそのまま練習が終わったら(本番で)全然跳べる気がしなかったので、最後の3分だけジャンプを練習しました」
最後の3分間で、4種類の4回転を次々と成功させる。本来なら必死にジャンプを調整する35分間をこんな風に使うことができる貫禄と、ランビエルコーチとの信頼感が、宇野の中にあった。
フリー演技後半「新たな練習」への挑戦心
迎えたフリー本番。ショート首位の宇野は最終滑走である。世界選手権の代表をかけた仲間たちの演技を、しっかりと見守った。
「どの選手も、エッジ系のジャンプで苦戦しているなと思いました。僕も6分間練習では気をつけていたけど、(最終滑走で待ち時間が長く)、氷に降りてからすぐ本番を跳ばないといけない中では難しくなるな、とイメージしていました。実際に氷に降りて感触を確かめてみて、失敗の可能性は高いと思いました」
「失敗の可能性は高い」と思いながらもそれはあまりネガティブな感情ではなかった。4回転ループは成功し、サルコウは2回転に、4回転フリップは転倒し、4本目のトリプルアクセルは降りる。前半はエッジ系のジャンプが多いためミスを予想しておくことで、むしろ演技後半での「新たな練習」への挑戦心が芽生えた。