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4年前、元・相方の死…なぜ錦鯉は中年でも輝けたのか? 先輩芸人の証言「チャラチャラ遊んでた芸人が50歳で、いきなり売れるわけない」
text by
鈴木工Takumi Suzuki
photograph byWataru Sato
posted2022/12/05 17:02
昨年のM-1グランプリで史上最年長で王者になった錦鯉。今年、長谷川雅紀は51歳、ツッコミの渡辺隆は44歳になった
「これはSMAの文化ですね。圧倒的に面白いAクラスの才能の持ち主は一握り。Bクラス、Cクラスの才能が芸能界で生き残ろうとするなら、自分が正しいとは思わず、いろんな人のアイデアを利用してのしあがっていけ、という考え方なんです。基本的に他事務所に入れなくて苦労してきた人間の集まりなので、競うよりもみんなで力を合わせようという気概がありますし」
原澤たこやきも、芸人間で先輩後輩関係なく意見交換する慣習があると語った。
「人の案をもらうこともあります。逆に自分の提案が採用されたら、嬉しいですね。SMAは30代以上の芸人が多いから、おじさんたちが励まし合って、高め合っている。おじさんが孤立したらもう見ていられないじゃないですか」
「チャラチャラ遊んでた芸人が50歳で、いきなり売れるわけがない」
改良が加わった漫才は見事にはまり、錦鯉は頂点に立った。自宅で決勝戦の放送を見ていたザコシショウは、ファーストラウンドの漫才から優勝を確信したという。
「完璧に仕上がってたし、他のメンバーを見ても敵がいないじゃん! って。だから横で奥さんが興奮してましたけど、絶対に優勝すると思ってたから、そこまで感動はしなかったんですよ。だって余裕の余裕だったもん。大余裕でしょ」
それから「中年の星」と称えられ、この1年、多方面で活躍したのは周知の事実である。これまで芸人が表舞台に躍り出るのに、「若さ」は重要な要素で、若手時代にチャンスをつかめなかった芸人が、年を重ねてから再浮上することはごく稀だった。ましてや島田紳助がM-1を立ち上げた基本理念は、「結成10年までに結果を出せない漫才師に引導を渡す」だったのだ。なぜ錦鯉は中年でも輝けたのだろうか。
「芸人が加齢によってつまらなくなる」という考え方に否定的なのが平井だ。
「笑いの間を理解して空気も読めるようになって、芸歴を重ねただけテクニックが増えるのだから、年を取ってる方が面白いじゃないですか。マネジメントする側が、おじさん芸人たちの進む地図を上手に描けさえすれば、問題はない気がします」
ザコシショウも年齢は関係ないと語りつつ、「ただ、年をとった芸人が誰でも売れるとは思ってほしくない」と釘を刺した。
「チャラチャラ遊んで、適当にやってきた芸人が50歳になって、いきなり売れるわけがない。錦鯉はずっとお笑いが好きで一切怠けずやってきて、やっと成功をつかんだのが50歳だったという話。若いころに怠けててもいいんですけど、途中でこれじゃダメだと気づいてから、そこから毎日精進していこうと思わない奴は売れないですよ」
平井と若手芸人2名のインタビューの場になったびーちぶには、ネタ見せに来た芸人が狭い空間にひしめいていた。10年後、この中の誰が残っているかはわからない。ひとつ確かなのは、栄光をつかむのは今日の煙草代がなくても心折れなかった者ということだ。
<前編から続く>