この世の中には、なぜか人の見た目や性的な魅力を勝手にジャッジしていいと思っている男がいる。“美女アスリート”といった言葉もいまだに使われる。

「レスラー、スポーツ選手の中で、見た目がいいからモデルとか水着のお仕事がくるっていう人もいますよね。それはいいことですけど、試合の評価、選手としての評価とは別。少なくとも私はそこで闘うつもりはないです」

　強さ、実力を追求するのも、簡単なことではない。野球、柔道時代と比べると筋肉は落ちたし、つきにくくなっている。ウェイトトレーニングの数値も下がった。

「睾丸を摘出して、女性ホルモンを打っているので。筋肉がつきにくいのは当たり前ですよね。ニューハーフの世界の常識で言うと、私は逆行してるんです。みんなにとっては“細さが正義”。コルセットして胸を入れて。なのに私は筋トレをしている。お店の人からも“なんでそんなことを”って聞かれますね。

　でも“女の人は鍛えちゃいけないの？”っていったら、そんなことはないですよね。今は女性が筋トレするのも流行ってますし」

エチカ・ミヤビが闘う理由

　学生時代のエチカは、男として生きていくためもあってスポーツに打ち込んだ。しかし今は違う。女として“強い女性”に憧れ、それを目指して練習している。自分が強くなり、有名になることには意味があるとも思っている。

「自分がトランスジェンダーを代表するとか、世の中に何かを訴えたいという気持ちはないです。でも自分のこと、自分の人生を知って救われる人もいると思うんです。自分の性とか生き方について悩んでいる人、昔の自分みたいな人はたくさんいる。そういう人が、プロレスを通して私を知って、その人なりの正解を見つけてくれたらいいなと思います。やっぱり、自殺してしまうようなこともある悩みなので。自分がそれを食い止められるだけの影響力を持てたらなって」

　生きてきて今が一番楽しいし自由だとエチカは言う。これからも偏見との闘いは避けられないだろう。実力をつけ、キャリアを積み、勝利を挙げるまでには何度も悔し涙を流すことになるはずだ。けれど“トランスジェンダーの女子プロレスラー”という道の自由さと楽しさを伝えられる日も、頑張っていればきっとくる。エチカ・ミヤビが選んだプロレスとは、そういう世界でもあるのだ。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。