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セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
「資産6兆円超」オーナー就任で金満化→W杯スペイン優勝戦士セスク加入も出遅れ…なぜか「セリエB」に懐かしの名手が集っている!
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byEmilio Andreoli/Getty Images
posted2022/10/09 17:00
コモに電撃加入したセスク・ファブレガス。かつてのW杯スペイン優勝戦士はなぜセリエBに?
コンサルタントとしてコモ買収に携わり、昨年2月から現職に。昨季のセリエBでチームが悠々残留したのを好機と見なし、一気にセリエAへ乗り込む時期がきたと踏んだワイズはこの夏、セスクとアンリというワールドクラスの大物2人をクラブに誘い込んだ。
いくらセスクとはいえ、1人の力でリーグ戦を勝ち抜くのは不可能であることくらいCEOは承知している。現場のチームには、元ミランFWパトリック・クトローネなどセリエA経験を持つ新戦力もぬかりなく補強した。
“今季のセリエA昇格レースを面白くするのはコモだ”
皆がバラ色のシーズンを思い描いた。
荒々しいセリエBで「魔法」を披露できず
ところが、コモは大きく躓いた。
開幕から7節終了時点で3分4敗、未だ白星がない。上位争いをするどころか、よもやの最下位に喘いでいる。
大きな期待を背負う35歳のファブレガスは調整が遅れ、じょじょに出場時間を増やしているものの、入団時に豪語した「魔法のようなプレー」は未だ見せられず。新天地イタリアのサッカー観やセリエBの荒々しさに順応する段階で、ハンドでPKを献上するなど名手らしからぬ失態もあり、周囲との連係強化は急務といえる。
3部からの昇格組スッティロルとの5節ホームゲームで、コモは0-2の完敗。試合後、あまりの体たらくに怒った地元ファンが上層部や一部の選手に詰め寄る騒ぎまで起こり、慌てたワイズCEOが「あなた方のフラストレーションは理解できる」とファンへ忍耐を要請する始末。
“じゃない方”のガットゥーゾ監督不在も響いた
コモの思わぬ誤算は、監督だった。
8月13日、今季の開幕戦をカリアリと引き分けた後、指揮官ジャコモ・ガットゥーゾは、練習場に来ることをぷっつり止めてしまった。
奇っ怪なことに試合の采配どころか、毎日の指導まで放り投げてしまった。2節目からは副監督が代行を務めたが、現場の長であるガットゥーゾの不在は長引き、選手たちの不安は日に日に増した。
クラブは「監督は体調不良で休養中」とだけ発表し、詳しい病状は伏せたが、カルチョの世界の暗黙の了解で“監督は精神的に参ってしまったのだ”と察しがついた。
今季が開幕したとき、イタリア1部と2部を合わせた全40チームのうち、コモのガットゥーゾはクラブの地元で生まれ育った唯一人の監督だった。
彼は、コモで200試合近くをプレーした下位カテゴリーでの現役時代や長く続けてきた育成年代の指導を通じて、地元の夢と希望、そして重圧を誰より知っていた。謙虚で実直だったガットゥーゾは、今季も地に足つけてセリエB残留を、と堅実なプランを練っていたのだろう。