濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「背中まで見られてる。なんて素敵なんだと」トップ女子レスラー・安納サオリの輝きと“絶対不屈彼女”と呼ばれる理由《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/09/23 11:03
現在はフリーとして活動し、アイスリボンのシングルベルトを巻くプロレスラーの安納サオリ
“中心”にいるのが似合うレスラー
昨年末からアイスリボンは何人もの主力選手が退団、引退し、若い世代が中心になっている。安納たちフリー選手、他団体のレスラーは、いわばアイスリボン新世代の“壁”だ。安納vs.尾崎はフリー対決、安納vs.バッケルはフリーと外国人。そこに忸怩たる思いを抱く所属選手もいるだろう。
「フリーの私がベルトを巻くのが面白くないっていう選手がいて当然だし、そうじゃなきゃいけないと思います。実際、みんな私と試合すると当たりが強い。チャンピオンはモテます(笑)。守るものがあるというのは久しぶりの感覚ですね。そこで“自分がベルトを取り戻すんだ”って頑張る所属選手がいれば、アイスリボンも盛り上がっていくと思います。
だけど私だって、新世代が成長するまでの“つなぎ”になるつもりはないので。私が目立って、私が輝いて、それでアイスリボンにお客さんを呼べばいいって考えてますね」
ベルトを巻く安納の姿を見てあらためて思ったのは“中心”にいるのが似合うレスラーだということだ。身上は、どこで誰と闘っても「初めて見たお客さんを一目惚れさせる」こと。出番が前半戦でも、自分が一番目立つつもりでいる。もっとたくさんの人に安納サオリを届けたいし、以前から見てくれている人、周りの人間にとって「自慢できる存在になりたい」とも言う。
「チヤホヤされたいです(笑)」
少しでも休みがあれば帰省しているという故郷・滋賀でも試合がしたいそうだ。今の安納なら自主興行も可能だろう。本人は「試合が終わるとすぐ家に帰っちゃうんでレスラーの友だちが少ないんですよ。出てくれる人いるかな」と言うのだが。
「いろんな形で“安納サオリ”というブランドを高めていきたいです。今、そのために欠かせない武器がアイスリボンのベルト。だから防衛し続けないと。そして、いつかベルトを失っても価値が落ちない選手になりたい。今は“プロレスやってます”って言うと驚かれるんですよ。でもなりたいのは逆の存在。安納サオリって言ったら知らない人がいないくらいの。簡単に言うと……チヤホヤされたいです(笑)」
いかにも軽い言葉に聞こえるかもしれない。しかし試合を見れば分かるはずだ、「チヤホヤされる」ために彼女がどれだけ体を張っているかを。
安納にとって技とは台詞だ。もちろん相手だって言葉を放つ。それがとてつもない痛みとともに突き刺さることもある。けれど彼女は「どんな選手のどんな技でも全部、受けてやるっていう気持ちは常にありますね」と言う。その思い切りのよさ、言ってみれば“やられっぷり”もまた魅力なのだ。
「やられてやられて、そこからやり返すっていうのが燃えるんですよね。そこがプロレスの面白さじゃないですか」
やはり安納サオリは根っからの“絶対不屈彼女”なのだ。
(撮影=杉山拓也)
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。