濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「背中まで見られてる。なんて素敵なんだと」トップ女子レスラー・安納サオリの輝きと“絶対不屈彼女”と呼ばれる理由《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/09/23 11:03
現在はフリーとして活動し、アイスリボンのシングルベルトを巻くプロレスラーの安納サオリ
「今だから言えますけど、2020年はプロレスやめようと思ってました。プロレスがまったく楽しめてなかったです。そういう自分を見せてしまっているのが嫌でした。“こんなに応援していただいてるのに、私は何をやってるんだ”って。
そんな年の年末に、大事なシングルマッチが決まったんです。Sareeeさん(現WWEのSARRAY)との試合が12月30日。鈴季すずとのアイスリボンのタイトルマッチが大晦日。やる前は気が重かったんですけど、やってみたら負けて悔しいのと同時に楽しかった。見せる楽しさ、届けることの大切さを再確認しましたね。それがきっかけで“もうちょっと頑張ろう”と思うことができました」
「私は技を台詞だと思ってます」
その後も苦しい闘いが続いた。どの団体でもタイトルになかなか手が届かない。ただ試合を見ていると、極端に不調とも思えなかった。相変わらず人気もある。何より、その存在が発する“華”が抜群だ。だから危機感があるようには見えなかった。安納も、自分が抱えるもどかしさを周りに伝えることができていなかった。
そんな中で訪れたチャンスが、アイスリボンの王座決定トーナメントだった。本当に「やっと」掴んだチャンスだった。
「前回取材していただいたとき、初めて自分のもどかしい気持ちを話せたんです。その直後にトーナメントが始まって」
ベルトを巻いた今、振り返ってみると、以前の自分は「カッコつけてましたね。ツンケンして。表情もきつかった。自分の試合の記事を見るのが嫌でしたもん」。
アクトレスガールズのエースとして、チャンピオンとして、ずっと気を張ってきた。フリーになってからも、自分1人での闘いだから隙を見せたくなかった。しかしそれでは、レスラーとしてのあり方が窮屈になってしまう。
演劇出身の安納は「私は技を台詞だと思ってます」と言う。自分の気持ちを相手に伝え、観客にも届ける。技はそのためにあるのだと。「カッコつけた」安納サオリの台詞=技では、表現できる感情の幅が狭かったのかもしれない。
「今は“素”が出てますね。カッコつけることがなくなって。自分の記事を見るのも好きになりました」