濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「背中まで見られてる。なんて素敵なんだと」トップ女子レスラー・安納サオリの輝きと“絶対不屈彼女”と呼ばれる理由《特別グラビア》
posted2022/09/23 11:03
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Takuya Sugiyama
「やっとだね」
安納サオリは、何人ものファンからそう言われたという。
6月26日、安納は後楽園ホールでアイスリボンのシングル王座「ICE×∞」の新チャンピオン決定トーナメントで優勝。2020年にフリーになって以来、初めてのベルト獲得だった。
「見られるのが大好きだったんですよ」
デビューは2015年。“女優によるプロレス”、アクトレスガールズのリングだ。彼女は団体の一期生だった。
高校卒業後に故郷の滋賀から上京。役者を目指して悪戦苦闘している時にプロレスに出会った。始めるまでプロレスのことは何も知らなかったが、リングに上がる喜びは格別だった。
「小さい頃からバレエをやってダンスをやってミュージカルも。見られるのが大好きだったんですよ。普通は、ステージがあってその前に客席がある。でもプロレスのリングは四方から見てもらえるんです。背中まで見られている。なんて素敵なんだと」
性格的には「引きこもりタイプ」、家が大好きで「プライベートはずっとぽけーっとしてます」と言う。コスチュームを着てリングに上がることで「安納サオリになる」ことができ、だからこそ見られる喜びを感じるそうだ。
アクトレスガールズでは同期の万喜なつみ(現在スターダムに所属するなつぽい)とともに2トップと呼ばれた。団体初の“聖地”後楽園大会ではメインで初代シングル王者になっている。アクトレスガールズといえば安納サオリ。そう言ってもいいくらいの存在だった。
フリーとしての葛藤「プロレスやめようと…」
2019年末で退団し、フリーに。アクトレスガールズでできることはやり尽くしたと感じていたし、もっと外の世界を見て、闘ったことのない相手と試合がしてみたかった。何度も「退団したいです」と運営サイドに相談して、その度に慰留された。だが最後は「ここに居たから目標が持てました。ありがとうございます」と感謝を述べ円満退団した。
だが、フリーになったとたんにコロナ禍が始まった。たくさん試合をして顔と名前を売りたい時期に、興行そのものがない。スタートダッシュに躓いた形だ。試合をしても思うように結果が出ない。想像していたような突き抜けた活躍ができない。
安納自身は「コロナ禍のせいとか、フリーにはチャンスが少ないとかは言いたくない。状況のせいじゃなく自分がよくなかったんです」と言う。