濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「背中まで見られてる。なんて素敵なんだと」トップ女子レスラー・安納サオリの輝きと“絶対不屈彼女”と呼ばれる理由《特別グラビア》
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/09/23 11:03
現在はフリーとして活動し、アイスリボンのシングルベルトを巻くプロレスラーの安納サオリ
素直で“隙だらけ”の魅力
9月24日のアイスリボン後楽園大会では、メキシコの4冠王者ステファニー・バッケルの挑戦を受ける。6人タッグマッチで安納が敗れたことから決まったタイトル戦だが、正式決定までは時間がかかった。リング上でマイクを持ち、通訳なしのやり取り。スペイン語を聞いてなんとなく意図を読み取っていくうちに、安納は自然と関西弁になっていた。8月28日の初防衛戦では、同じアクトレスガールズ一期生の尾崎妹加(フリー)に勝ってバックステージに戻ると、インタビュースペースの椅子にダメージと安堵でへたり込んだ。隙だらけと言えば隙だらけ。けれどその分、自分の気持ちを素直に出せる。
「お客さんを意識しすぎないようにもなったかな。前は“私を見て”っていう感じだったんですけど、今は“見たければどうぞ”みたいな(笑)。その分、自分のファンの方たちだけじゃなく、会場全体を見渡せてるかもしれないです」
尾崎との対戦を前に新型コロナウィルスに感染、試合から遠ざかった時期もあった。復帰したのはタイトルマッチの前日だ。
「高熱は出るし体じゅう痛いし咳も止まらないし朦朧として体が波打つ感じもして。でもずっと試合のことを考えて、プロレスの映像を見れるだけ見てました。タイトルマッチを延期してもらおうとは思わなかったです。スケジュール通りに妹加と闘って防衛したかった。それができなかったら“絶対不屈彼女”じゃないって」
キャッチフレーズ“絶対不屈彼女”に込めた思い
絶対不屈彼女。デビュー当時からのキャッチフレーズだ。プロレス入りする前、自分の役柄と演技を見た関係者に「不屈」という言葉を教わった。言葉の意味を知って、それを大事にするようになった。レスラーデビューしてからも「負けてたまるか」という気持ちが支えだった。「女優がプロレス?」、「プロレスをナメるな」という声をはね返すためにも“絶対不屈彼女”でいる必要があった。
「あるイベントに杖をついた方がいらっしゃったんです。“前は歩けなかったけど、あなたの試合を見て、絶対不屈彼女という言葉を知り自分もリハビリを頑張ろうと思って、このイベントに歩いて来ることができました”って。それを聞いて、一生この言葉を大事にしようと思いました」
アクトレスガールズを離れ、フリーで闘いながら変化があった。でも“絶対不屈彼女”というキャッチフレーズは変わらない。気がつけば、アクトレスガールズ卒業生も増えていた。初防衛戦を終えて大会エンディングを迎えると、自分の横には尾崎、SAKI、本間多恵と元アクトレスガールズの選手ばかり。実は王者決定トーナメントも決勝以外は元同門対決ばかりだった。かつての仲間たち、同期や後輩と闘うことで、安納は自分らしさを取り戻したのかもしれない。ということは、9.24後楽園のバッケル戦は新たなスタート、チャンピオンとしての正念場と言ってもいい。