「荒木大輔さんです。荒木さんは野村監督が要求する制球力がないことを自覚していた。加えて彼には度胸が備わっていたので、野村さんの指示は聞き流して“打てるもんなら打ってみろ、打たれたらそれまでだ”と覚悟を決めて腕を振った。そういう思い切りのよさがあったから、荒木さんはケガから復活して、1992年のリーグ優勝に貢献することができたんです」

　14年ぶりのリーグ制覇を果たした直後、三雲さんは古田敦也に荒木の操縦術を尋ねたことがある。そのときの古田のコメントは非常に印象的なものだった。

「荒木さんは思い切って投げてくれれば打たれないんです。なのでぼくは、細かいコントロールは求めません。いやこれ、野村監督には内緒ですよ」

　そういって、古田は悪戯っぽく笑ったという。

　すでに古田は野村ID野球を完全に理解し、自らの形に進化させようとしていたのだ。

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