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キック界の“那須川天心ロス”を癒やすのは誰か? 惜敗の原口健飛に辛勝の海人、かつて魔裟斗が放っていた「ホンモノのオーラ」を持つものは…
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph bySusumu Nagao
posted2022/09/09 11:01
鬼の形相でペットパノムルンを攻める原口健飛。昨年敗れたGLORY世界フェザー級王者相手に延長ラウンドまで奮闘したが、わずかに及ばなかった
勝っても喜ばなかったのは試合内容に納得していなかったからにほかならない。6月19日の『THE MATCH 2022』ではK-1の“怪物”野杁正明を撃破。70kg級国内最強を証明し、このペティ戦を足がかりに世界に打って出ようとしていた。ホームリングのシュートボクシング(SB)ではすでに引退を宣言しているアンディ・サワー(オランダ)とのSB魂伝承マッチが企画されているし、RISEルートで来年にはGLORYに参戦して70kg級の世界チャンピオンと拳を交わす青写真を描いていた。本音をいえば、ペティを一蹴して、次のステップに進みたかったのだろう。それほど高くないと想像していたハードルは想像以上に高かったということか。
「納豆嫌い」でバズった山田洸誓はベストバウトを披露
原口や海人とは対照的に、試合後に笑顔を絶やさなかった選手もいる。初来日のヤン・カッファ(オランダ)を相手に、3R終了間際打ち合いの中痛烈な右フックで失神KOに追い込んだ山田洸誓だ。過去の試合を振り返っても、山田のベストバウトと断言できるほどインパクトがあるフィニッシュだった。
原口や海人同様、山田も『THE MATCH 2022』に出場しているが、安保瑠輝也に判定負けを喫している。しかしながらSNSを武器にしてのアピールに長けた安保に、大の納豆嫌いやSNS初心者であることをイジられたおかげで、山田の知名度は格段に上昇した。
令和の世ではリング上の強さだけではなく、ネット上での自己プロデュース力も求められる。アニメ『タイガーマスク』のエンディングテーマの一節のように「強ければそれでいいんだ」という昭和のスポ根的なマインドだけでは、時代の流れに取り残されてしまう。果たして山田は安保の挑発に引っ張られ、SNSを味方につけられるようになった。
安保との闘いがなければ、自分が大嫌いな納豆を食べる動画をTwitterにアップしてバズることもなかっただろう。格闘技史に大きな足跡を残した『THE MATCH 2022』での敗北を糧に、山田は大きく成長した。
結果は三者三様だったとはいえ、誰かが空席となったポスト天心の座に座ることができたわけではない。ちょうど1週間後に開催されたRISEのナンバーシリーズ『RISE 161』で、素顔は国士館大の1年生ながら全身から殺気を漲らせていた“平成最後の怪物”花岡竜の方が特異な存在感をアピールしていたのではないか。