レコード売上げでもライバルだった木村健悟

　あの温厚な藤波をそこまでキレさせる『マッチョ・ドラゴン』恐るべし。カセットテープを破壊してまで封印した曲を37年ぶりにNHKで披露するのだから、今回の『1オクターブ上の音楽祭』出演がいかに奇跡的なことかがわかる。

　なお、木村健悟は「『マッチョ・ドラゴン』は歌とは呼べない雑音！ 逆立ちしても俺のほうがうまい」とたびたび発言しているが、それには理由がある。

　木村といえばプロレス界随一の歌のうまさで知られ、石原裕次郎を彷彿とさせるムード歌謡の甘い歌声で、新日本の中でいち早くレコードデビューもはたしていた。そして藤波が『マッチョ・ドラゴン』を発売したのと同時期に木村健悟も2枚目のシングル『孤独（ひとり）』を発売。当時、新日本プロレスの各会場では、藤波と木村がそれぞれ即売サイン会を行い、リング上のライバル同士がレコード販売でも競い合っていた。

1987年、ワンマッチ興行にて行われた藤波vs木村健悟　©AFLO

「あれが俺の歌より売れるなんて、ふざけるなって！」

　この勝負、歌のうまさなら間違いなく木村健悟の勝ち。しかし現実は違った。

「悔しいことに、俺のレコードより藤波のほうが売れるんだよ。あんな“雑音”のほうに行列ができてさ（笑）。あんなの買ってどうするんだと思ったけどね。だいたい、夜寝るときに『マッチョ・ドラゴン』聴いて眠れるか？ 俺の曲を聴いたほうが心が安らかになるよ！ あれが俺の歌より売れるなんて、ふざけるなって！」

　こう憤る木村健悟だが、当時は藤波とタッグを組んでおり、二人の入場テーマ曲は『マッチョ・ドラゴン』だったのだ。木村はどんな気持ちで毎日リングに向かっていたのだろうか。

　藤波の歌手活動は『マッチョ・ドラゴン』1曲で終わってしまったが、木村はその後も『泣きながらアイ・ラブ・ユー』『デュオ・ランバダ』などの新曲を発表。年末が近づくと「大晦日の予定は空けてあります！」と『紅白歌合戦』出場をアピールするのが恒例となっていたが、40年近く待ち続けるもNHKからのオファーはまだ来ていない。

　にもかかわらず今回、ライバル藤波の『マッチョ・ドラゴン』がNHKで大々的にフィーチャーされることが決定。当時を知るファンは、そんな木村の気持ちを想像しながら『1オクターブ上の音楽祭』を観るのもいいかもしれない。

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