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辰吉丈一郎22歳「なんや、最近よう写真撮りに来てるなぁ」なぜ人は“浪速のジョー”に惹かれるのか…30年間撮り続けた盟友が語る素顔
posted2022/09/01 11:02
text by
ヤナガワゴーッ!Go! Yanagawa
photograph by
Go Yanagawa
※名前の本来の表記は「吉」の士が「土」、「丈」は右上に点のある「丈'」
1990年9月11日。当時、日刊スポーツ新聞社写真部の社カメだったボクは後楽園ホールにいた。大阪から辰吉丈一郎というすごいボクサーが来る、と聞いたからだ。アマチュア戦績はKO率100%。この日がプロ4戦目にして、日本タイトル初挑戦だった。
試合は圧巻の一言。後楽園ホールにカシアス・クレイが舞い降りたかのようだった。4回KOで王者・岡部繁の2度目の防衛を阻み、辰吉は見事大阪にベルトを持ち帰ることになる。速くて強くて、なによりもその美しいボクシングスタイルに、ボクはすっかり魅了されてしまった。
「撮っているだけで幸せ」だったあの頃
そして、1991年9月19日。辰吉は当時国内最短記録のプロ8戦目で世界王者となる。残念ながら同試合は大阪写真部の管轄で、撮影に行けなかったことを心から悔やんだ。
その後、辰吉は網膜裂孔が発覚し、1年間の休養を余儀なくされる。その間にボクは日刊スポーツを退職してフリーランスとなり、初防衛戦に向けて調整に入った辰吉のもとへ駆けつけた。とはいえボクが一方的に会いたくて取材を取りつけたわけで、辰吉からしてみれば迷惑だったのだろう。最初の挨拶はジロリとにらまれて終わった。
「こ、怖っ……!」
だが、取材者としてそれで帰るわけにもいかない。翌日からせっせと練習に同行する。睨まれこそしなくなったが、無視され続ける。その代わりに、マンツーマンの天才トレーナー・大久保淳一さんや、大阪帝拳の西原健司先生がいろんな情報をくれる。
それで充分である。なにせ練習そのものが美しい。撮っているだけで幸せなのだ。身長164cmに対して、リーチは178cm。肘から先、指も長い。背中が大きく、足は細くて長い。ボクサーとして理想的な体型だ。それがムチのようにしなる。ジャコモ・マンズーの彫刻のようだ、と思った。