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「羽生結弦くんに思わずシャッターを“押させられた”」五輪3大会撮影のカメラマンが語る思い出の1枚「北京五輪で特別に演じてくれた『SEIMEI』が…」
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NumberWeb編集部Sports Graphic Number Web
photograph byAsami Enomoto
posted2022/08/30 18:09
フリーカメラマン・能登直と文藝春秋写真部の榎本麻美の対談第2回。同じ現場をともにする2人はあるプログラムで思い出す場面があり…
榎本 これは表紙ではなく、電車などに掲示される中吊りで使われた写真なんです。言葉にするのが難しいですが、羽生さんの「色気」とも違う、一種の“妖艶さ”、綺麗な雰囲気のある感じが写真にちゃんと入ったかな、と。この写真の前後に何カットか撮っているのですが、一瞬ニヤッと笑ったこのカットが妖艶でいいなと思っていて。電車でこの写真が使われた中吊りを見て、嬉しかったですね。闘志あふれるアスリートらしい姿も見せてきましたが、キリッとした演技で、見ている人をゾクゾクっとさせるのも羽生さんの魅力かな、と。
カメラマン向けのサービス『SEIMEI』
榎本 次も私からで。平昌五輪の『SEIMEI』、演技中の1枚ですね。
榎本 選手の正面にジャッジ席があるのですが、この1枚はそのジャッジ席の上から撮ったものですね。この『SEIMEI』は、絶対に転ばないという意地を感じる鬼気迫る演技で『本当に凄いな』と思わされた、忘れられない凄味のある演技でした。
能登 ケガ明けの演技でフリーは持つのだろうかと心配する声も当時あったりして、どうなるんだろうと思って見ていましたが、演技の最後のほうのステップの時はニヤッとしているところもあったので、「このままいってやる」という意志を感じる演技でしたね。そして撮りながら、「これは金メダルいったな」と思いながら、シャッターを切っていた、そんな覚えがあります。
榎本 私も夢中になって撮っていました。『SEIMEI』と言えば、能登さんもいた北京五輪のエキシビションを迎える前の練習。撮影に来たカメラマン向けにサービスで、私たちをジャッジに見立てて滑ったのも印象深くないですか?
能登 あれはすごかった。ショート、フリーの演技が終わった後の17日、18日と練習の時間があり、そこで歴代のプログラムを滑ってくれて。18日は9曲あって、その最後に滑ったのが『SEIMEI』でした。あの時の『SEIMEI』はジャンプは飛んでいない中でのステップだったので、体力がある状態で一番キレがあったように思います。撮っていても速くて追いつけない(笑)。普段とは異なるジャッジ席のような至近距離で見れたのは幸せな時間でしたね。
榎本 メディアに向けたプレゼントのようですごい思い出に残っています。すごい贅沢なものを見たというか……。
能登 こんな近くでありがたい……。
榎本 とか言いながら、みんなで会場から帰りましたよね。
能登 あの『SEIMEI』は素晴らしすぎて、演技終わりのポーズを決めた後に僕は思わずシャッターから手を離して、こう拍手していたんですよ。で、その後にポーズをしてくれたんですが、ずっと拍手していました(笑)。隣の位置にいた田中(宣明)さんはちゃんと察知して撮っていましたが……。
榎本 そうだったんですね(笑)。そうなるのも本当に分かる演技でした。能登さんの4枚目も見ていきましょうか。
<#3へ続く>
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