甲子園の風BACK NUMBER
一番投げた左腕エースで「213球」 東北勢初優勝とともに「仙台育英の5人継投」が“高校野球100年の歴史を変える偉業”な理由
text by
間淳Jun Aida
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/23 11:05
100年の時を超えた、東北勢初優勝。仙台育英の栄冠は高校野球史に残る戦いぶりだった
「野球は打つ確率が低いスポーツです。打者が投球に慣れる前に継投することが有効だと考えています」
投手は立ち上がりが難しいと言われるため、継投にはリスクも伴う。須江監督は継投の意識をチームに浸透させた。リードしている試合展開でも複数の投手に登板の準備をさせ、ブルペン捕手に投手の調子を聞く。決勝でも、2回表から古川投手が肩をつくり、6回表には高橋投手がブルペンに入った。この日の2人の状態から、須江監督は高橋投手の起用を決めている。
複数投手にはほかにもメリットがある
複数投手には他にもメリットがある。決勝で先発した斎藤投手は「いい投手が後ろにいるので、全力で投げられます」と話す。完投は求められていない。1試合を投げ切ることを計算して力や球種をセーブする必要はなく、初回から全てを出し切る。
精神的にも、ゆとりが生まれる。
仮に自分が本来の投球をできなくても、信頼できる仲間が控えている。準決勝の聖光学院戦では、1回裏の攻撃が始まる時から古川投手がブルペンに入り、2回裏には湯田投手が準備していた。先発の高橋投手は2回1失点でマウンドを湯田投手に譲り、仁田投手を含めた3人の継投で勝利した。相手打者の目先を変え、研究や対策を分散させる効果は絶大だった。
完投した投手はゼロ。決勝まで1試合で100球を超える投手がいなかった仙台育英。100年かけて開けた扉は、高校野球の常識を変える新しい扉を予感させた。
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