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清原和博「甲子園に一緒に行ってもらえませんか?」100回大会への切実な願い。高級車での送迎を断り…「ぼく、高校生のときより緊張してるんちゃうかな」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2022/08/20 17:05
甲子園歴代最多の通算13本塁打を放った金属バット(現物)を握る清原和博(2018年撮影)
「高校のときは決勝の前もぐっすり眠れたんですよ。PLにいたころは試合よりも練習のほうがよっぽど緊張していましたから......」
ガラス越しにさしこんでくる陽射しがその横顔を照らしていた。留置場を出て、カーテンを閉め切った部屋に閉じこもっていたころと比べると清原の肌はいくらか浅黒くなっていた。全体のシルエットは相変わらずひょうたん型の曲線ではあったが、二の腕の隆起からはホームランバッターの面影がうかがえた。絶望と憂鬱で膨れ上がった抜け殻のようだったころを思えば、清原は明らかに生気を取り戻していた。つまり甲子園に行く資格を手にしていた。
清原が急に不安そうな顔に…
「ぼく、少しは絞れましたか? まだデブって見えます? ちょっとでも痩せて見えるかなと思って一応、黒い服を着てきたんですけど......」
清原は急に不安そうな顔になった。宮地はその様子にふっと笑うと、少しアクセルを緩めた。まもなくサカイの店が見えるところまで来ていたが、もう少しこのままハンドルを握っていたいような気がした。
そのとき車内にはラジオの天気予報が流れていた。清原の話に耳を傾けていたせいか、気象予報士の淡々とした声は宮地の耳には届いていなかった。
『台風の接近によって、西日本は突発的に雷雨となるおそれがあるでしょう』
昼過ぎには雨になる可能性があるーー音量をしぼったカーラジオはこの日の西日本が極端な空になるだろうと告げていた。宮地も清原も、これから向かう先に暗雲があることにまだ気づいていなかった。
<つづく>