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「これからは経営者になる」広島3連覇の功労者・今村猛はいま何してる?「いちおう、タレントかな」 

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前原淳

前原淳Jun Maehara

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photograph byJIJI PRESS

posted2022/08/15 11:00

「これからは経営者になる」広島3連覇の功労者・今村猛はいま何してる?「いちおう、タレントかな」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

球団新記録の111ホールドを達成した19年7月15日の今村。現役引退までに通算115ホールドを記録した

「10年後を見据えたときに、まずは自分自身を売り込んでいくことが大事だと思ったんです。『元』でもプロ野球選手の影響力の大きさを感じる。広島ではもう多くの先輩方が仕事されているので、自分への需要が少ないのは分かっています。ただ、今のうちにちょっとでもやっておかないと前に進んでいかない気がしたし、もったいないなと思ったんです」

 足場づくりのために「めちゃくちゃ苦手」という人前に出ることにも、しゃべることにも意欲的だ。

 現役時代もそうだったが、今も派手さはない。タレント業で得た収入は貯蓄に回し、現役時代の蓄えを取り崩しながら過ごしているという。

 マウンド上で飄々と投げていた姿が思い出される。どれだけ緊迫した場面でも、連投が続いても、感情を表に出さずに右腕を振った。今、向き合うのは、マウンドや白球ではなく、カメラやパソコン。バットを持った屈強な打者ではなく、名刺を手に背広やジャケットを着た人たちだ。マウンド上では見せなかった、困惑の表情を浮かべることもある。

「学ぼうとしているけど、分からないことが多い。ほかの人よりも時間がかかっていることもあると思う。でも、地道にやっていくしかない」

投手にとって一番つらいこと

 現役への未練は不思議なほど感じられない。

「もう投げられない。痛い。関わるなら違う方向で関わりたいと思っている」

 高卒2年目の11年から3年間で180試合に登板し、3連覇した3年で178試合に登板した。

 今季の広島は中継ぎ陣の登板数が管理され、負担が軽減されている。今村も現役時代の登板数がもっと少なければ……と思うこともある。ただ、本人が強く否定する。

「それを言っちゃうと、今村猛という野球選手は生まれていないですよ」

 現役時代、チームの勝利に貢献することに喜びを感じていた。“潰された”とも思っていない。

「求められたら、それはやるでしょ。求められないほうがつらい。だって、投げたいんだもん。試合を始める先発、試合を締める抑えが注目されますが、僕はそこをつなぐ役割が一番向いているなと思った。給料が上がりにくいから『抑えをやりたい』と言ったこともあるけど(笑)。試合をつなぐにすぎない、そのひとつのパーツが向いていたんだと思う」

 今年、ともに戦った仲間がいる広島は、シーズン終盤まで上位争いに加わっている。「まだチャンスはありますよ」と一瞬、アスリートの目に戻った。

 先に見据える目的地を言葉にしようとはしない。「楽しみにしておいてください」と言うだけだ。第2の人生はまだプレーボールがかかったばかり。勝利という名の成功に向けてプロセスを一つひとつ、つないでいく。

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