炎の一筆入魂BACK NUMBER
「これからは経営者になる」広島3連覇の功労者・今村猛はいま何してる?「いちおう、タレントかな」
posted2022/08/15 11:00
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
JIJI PRESS
プロ野球のシーズンが終盤に突入した8月、久しぶりに再会した元広島の今村猛は、ハーフパンツとTシャツ姿でやってきた。
「夏はいつも野球やっていたから、まだ違和感はありますよ。ずっと(シーズンオフの)12月みたいな感覚が続いている」
にこりと笑う笑顔は、グラウンドを離れた選手時代と変わらない。
広島から突然の戦力外通告を受けたのは昨年10月14日のことだった。2009年ドラフト1位で入団し、初めて一軍登板なしに終わったシーズンオフ。引退試合も引退報告もないままの幕引きは、3連覇の功労者たる中継ぎ右腕としてはあまりにも静かだったように感じられた。
戦力外通告から2カ月、一部メディアから現役引退が報じられた数日後の12月25日、今村はYouTuberとして広島ファンの前に帰ってきた。
YouTube「今村猛-カピチャンネル-」を開設したのだ。不定期ながら動画を更新している。「何も言わずに辞めてしまったので、ファンの方へ発信したいと思っていた」と話すように、現役時代はあまりできなかったファンとの交流ツールでもある。
キー局のバラエティー番組に出演し、地元テレビ局の番組での露出も増えてきた。現役時代あまり多くを語ろうとしなかった男が、さまざまな表情を見せ、活動の幅を広げている。肩書は何か? 尋ねてみると「いちおう、タレントかな」と答えた。いちおう、と前置きしたのは、現在地と目的地が別のところにあるからだ。
経営者・今村猛としての決意
「『うちに来ないか』と言ってくれた方もいたんですけど、それでは選手時代と同じになってしまう。プロ野球選手はアスリートとしてトップの人が集まっているけど、球団から雇われている立場。成功した一部の人はその後が保証されても、すぐにクビになってしまう人もいる。僕は、どちらでもない。これからは経営者になる。進む道をそう決めたから(現役を)辞めることもできた」
現役12年。高卒2年目に勝ちパターン入りして3連覇に貢献した。12年で通算431試合、115ホールドという濃密なプロ野球人生を駆け抜けたが、「成功した」とは思っていない。「広島カープの今村猛」でなくなった昨年末、「〇〇〇の今村猛」としてではなく、「今村猛」で生きていく決断をした。
ただ「広島カープの今村猛」だったことは大きな武器だと理解している。さらに、その武器には賞味期限があることも分かっている。