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「球が速すぎてバットに当たらない」噂は本当か? “江川卓の甲子園デビュー”は事件だった…相手打者の“ファウル”に球場がざわめいた日 

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太田俊明

太田俊明Toshiaki Ota

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photograph byBUNGEISHUNJU

posted2022/08/13 06:00

「球が速すぎてバットに当たらない」噂は本当か? “江川卓の甲子園デビュー”は事件だった…相手打者の“ファウル”に球場がざわめいた日<Number Web> photograph by BUNGEISHUNJU

巨人で活躍した江川卓。「高校野球史上最高ピッチャー」ともいわれる作新学院時代を振り返る

 多くの野球ファンが固唾を飲んで見守ったこの試合で、江川は1番から4番まで一球もバットに触れさせずに連続三振。5番打者が、この試合の23球目を初めてバットに当ててバックネットにファウルすると、それまで静まり返っていた超満員のスタンドは大きくどよめき、打者を称える拍手が湧き起こった。

 この打者も結局三振に倒れて、4回2死まで四球1個をはさんで11個のアウトはすべて三振。大会一の強力打線が、打球をまったく前に飛ばせない。終わってみれば、19奪三振で完封と、噂に違わぬ怪物ぶりを満天下に見せつけたのだった。

センバツ4試合で60奪三振は「最多記録」

 筆者も、この試合の江川をテレビで見ていた。19奪三振という記録もさることながら、183センチと当時としては背の高い江川が、モーションに入ると同時に軸足をつま先立ちにして、そのまま左脚を顔近くまで引き上げる豪快かつ華麗なフォームに惹きつけられた。

 右足に乗った体重を打者の方にゆっくり移動させながら、小さなテークバックから7割程度の力で腕を振る。すると、矢のような球が放たれて一瞬にしてキャッチャーミットに収まる。解説者が「いやあ、本当に速い。北陽の打者はバットを振ることもできませんね」と驚嘆していたのが、いまも強烈な印象として残っている。

 この、左脚を高く上げるフォームは、現ロッテの佐々木朗希にやや似ているが、佐々木が、左脚だけを上げるのに対して、江川は右足(軸足)をつま先立ちにしながら左脚を大きく振り上げる。体重を一度上にもっていき、そこから一気に打者に投げ下ろすイメージで、江川の方がよりダイナミックなフォームと言えるだろう。

 結局、この大会の江川は、2回戦・小倉南を7回1安打無失点、10奪三振。準々決勝・今治西戦を、9回1安打完封、20奪三振で準決勝まで進んだが、中1日で対戦した古豪・広島商業の“待球作戦”(相手投手に数多くの球を投げさせる戦術)に疲弊し、最後は意表を突かれた三盗に焦った捕手の悪送球で敗れた。

 このセンバツ4試合での奪三振60個は、いまも残る大会最多記録。まさに江川による歴史的な快投が席巻した大会だった。〈つづく〉

#2に続く「高校野球史上最高」18歳江川卓の怪物エピソード…甲子園で対戦した“九州No.1バッター”の証言「バットに当てる自信はありましたが…」

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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