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所英男「僕がやることは一つ」新世代王者に敗北も“44歳のRIZIN参戦”はなぜ感動を呼んだのか? “総合格闘技の歴史”を背負った男の現在地

posted2022/08/09 11:00

 
所英男「僕がやることは一つ」新世代王者に敗北も“44歳のRIZIN参戦”はなぜ感動を呼んだのか? “総合格闘技の歴史”を背負った男の現在地<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

所英男にとっては1年7カ月ぶりのMMAマッチとなった神龍誠戦。敗れたものの、大きなインパクトを残した試合だった

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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RIZIN FF Susumu Nagao

 格闘家の公開練習でもらい泣きしたのは初めてだった。まもなく45歳になるベテラン・所英男は、7月31日の『RIZIN.37』で1年7カ月ぶりのMMAマッチを行なった。かつて“闘うフリーター”と呼ばれた所だが、今はジムを経営する“実業家”だ。

 大会を控えての公開練習、彼のジム『所プラス』に到着すると、入口で本人がサウナスーツを脱いでいた。猛暑の中、ジムの周りを走ってきたらしい。

 取材陣に向けての練習は、ミット打ち1ラウンドとグラウンドのスパーリングを2ラウンド。バックを取られた状態など、自分に不利な体勢からスタートするシチュエーションスパーだ。“見せる用”ではなく、あくまで普段通りの内容。タップする場面もあった。それもまた普段通り。取ったり取られたりはいつものことだという。所は、それをそのまま見せた。飾ったり繕ったりはしない。

「いま若い子(ジム所属選手)が強くなって、取ったり取られたりになって。いい練習ができてます。出稽古に来てくれる選手もいて、自分たちで何か教えることはないんですけど、一緒に練習して『今のどうやるんですか?』って教えてもらって。それが自分にもジムのみんなにもいい練習になってます。ありがたいです」

所は、久しぶりに“青春”のただ中にいた

 バンタム級からフライ級に階級を落としての試合だが、減量も含めて久しぶりのMMAマッチに挑む時間は充実していた。

「(減量することで)ご飯も美味しいし、人のありがたみも感じて。素晴らしい日々です。やっぱ格闘技いいなぁって。何より元気なんですよ。そこは奥さんが一番喜んでることで」

 若い選手とバリバリやり合うのも、食事を制限するのも、明確な目標があるからだ。日本格闘技界の第一線にいる実感が「元気」をもたらした。きつい練習をしているから「自画自賛の日々です。体は疲れてても若い子と練習して。普通できないよなって。まあ、やられるんですけど」と笑うこともできる。

 たぶん所はその時、久しぶりに“青春”のただ中にいた。寝技での顔面パンチなしという独自ルールの中で“極め力”を培ったZST。2005年、『HERO'S』初参戦のアレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラ戦での劇的勝利と大ブレイク。その一夜明け会見には電車の遅延で遅刻し、遅延証明書を持ってきた。番組での共演から所ジョージに入場曲『逆境ファイター』をもらった。

 PRIDE、HERO'Sの後継団体DREAMではバンタム級トーナメント優勝。佐藤ルミナとの夢の対戦が実現したのは金網イベントVTJだった。UFCを目指す中で3連敗を喫したこともある。RIZINでは自分より若い世代と対戦してきた。勝っても負けても闘うこと、勝つために過ごす日々が青春だった。

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