試合直後、所が神龍に伝えたこと「約束してくれ」

「君は本当に強い。もっと上に行くなら“オヤジ狩り”とかは本当に遭った人、つらい思いをした人もいるんだから簡単に言っちゃダメだよ。それだけは約束してくれと言われました。盛り上げるために嫌われようと思ったけど、ヒールは卒業します。所さんとの試合で学びました。所さんみたいに応援されるには、ヒールじゃダメですね」

　そこが気になっていたのか、所は。いい人にも程があるだろう。若くて強くて素直な神龍によって“所英男幻想”はさらに大きくなった。所英男はまだ動けているし、新人時代から変わらず腰の低いナイスガイで、日本フライ級トップの22歳、そのキャリアに影響を与えた。

「全部勉強でしたね。これから世界に行く上で、この試合は絶対に必要だったと思います」（神龍）

　控室を訪れた神龍に「やめないでください」と言われ、所は「嬉しかったのと恥ずかしかったのと」。神龍の言葉はファンの思いでもあるだろう。筆者も同感だ。

44歳・所英男が闘い続ける理由

　試合から2日後、所はジムでの指導を再開したことをツイッターで報告した。一般会員から拍手で迎えられたそうだ。

「皆さん体のことを心配してくれるのですが、恥ずかしいくらいに大丈夫です」

　別のツイートでは「まだまだ頑張ります」、「次戦は祝勝会にします」とも。今回、所は負けた。競技者として神龍のほうが強かった。ただ所の可能性が潰えるような敗北ではなかった。

　前回の試合、2020年大晦日の太田忍戦を前にした彼の言葉を、よく覚えている。

「僕たち（の世代）が勝つことで、元気になれる人たちがいると思うんですよ。若い人たちではないかもしれないけど。そういうこともあるから、頑張らなきゃって」

　神龍戦での所は、負けはしたが“若い人”にも何かを届けた。現役ファイターとして、負けたらひどく落ち込むくらい本気で勝ちにいったからこそだ。もちろん、もう若くはない古参の格闘技ファンは言わずもがな。やってんなぁ所、頑張ってんなぁ。そう思えるのがどれだけ嬉しいことか。所英男が元気でいることで、我々も元気になれる。

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