「いい時と苦しい時、両方経験できた」

　試合後は涙を流したが、悔しさが込み上げたのはほんの一瞬だったという。

「負けた瞬間は悔しかったですけど、やり切った達成感の方が大きかったですね。（春夏連覇した）いい時と苦しい時、両方経験できたのが良かったと思います。どっちかだけでもアカンかったし、自分にとって貴重な経験ができた高校野球でした」

　甲子園での敗退後も練習をやめることはなかった。森にとって甲子園で優勝することは1つの目標だったが、それが断たれたから夢の終わりではなかった。準優勝することになるU-18侍ジャパンのW杯があったし、さらに先を見据えていた。

現在は西武に所属する森（写真は2015年） ©︎Hideki Sugiyama

森友哉から全国の球児へ

　そんな森が今年の夏（編注：2020年）を不本意な形で奪われた高校生たちへ伝えたいのは目標を持つことの大切さだ。

「自分が甲子園で負けてから頑張れたんは目標があったから。この先、野球をやる・やらないにかかわらず、まず、自分の目標をしっかり探して、そこに向かってがんばっていくのがベストやと思います。野球をやることだけが全てじゃないと思うし、他の道でも良いので、自分の目標を見つけることが大事じゃないですか」

　原稿を書きながら、西武－ロッテ戦のナイター中継をつけると、アナウンサーが絶叫していた。無観客でも変わらぬフルスイングで森がスタンドに放り込んだのだ。画面には、10年前と同じようにダイヤモンドを堂々と回る森の姿が映し出されていた。