ぼくらのプロレス(再)入門BACK NUMBER
「似てるじゃん」武藤敬司本人から絶賛…ものまね芸人・神奈月の細かすぎるこだわり「ひげフェルトも白髪に」 引退発表はどう受け止めた?
text by
堀江ガンツGantz Horie
photograph byShiro Miyake
posted2022/08/10 11:01
マニアックかつ豊富なレパートリーで人気のものまね芸人・神奈月。武藤敬司の引退発表をどう受け止めたのか?
神奈月をラクにした武藤の一言
――武藤さんってプロレスを熟知しているからこそ、他の業界のこともプロレスに置き換えてすぐ理解したりしますよね。
神奈月 そうなんです。それで一番すごいなと思ったことがあって。『ものまねグランプリ』って年間3回あるんですけど、僕は2018年にすべてMVPと1位を獲ったんですよ。
――年間グランドスラムを達成したわけですね。
神奈月 プロレスで言えばチャンピオンベルトを獲った状態なので、この地位をどう維持するかっていうアドバイスをしてくれるのかと思ったら、武藤さんは「チャンピオンなんてあとは噛ませられるだけなんだから、これからはどう負けるかだよ」って言ってて、すげえ考えだなって思いましたね。
――チャンピオンになったら、次は負けてベルトを明け渡す瞬間こそが最大の見せ場になる、と。
神奈月 それを聞いて、「べつに保持しようとしなくていいんだな。噛まされてベルトを明け渡せば、それがまた次の展開を生むんだな」と思ったら、すごくラクになりましたね。でも、実際そうなんですよ。普通の人はとにかくベルトを守り続けようとするじゃないですか。モノマネの世界でも、優勝したら「次も優勝、その次も優勝」と死守したがる人が多い。僕は「それってどうなんだろう?」「でも、自分がその立場になってみないとわからないな」と思ってたんですけど、いざ優勝した時、武藤さんに言われた言葉で目から鱗が落ちましたね。
武藤さんは、「一度頂点に立ったら、もう優勝しなくても確立してるんだから、あとはどうやって価値観を表現していくかっていう話だからさ」って言ってて、この人やっぱりすごいな、と。要するに、優勝したことですでに地位は築いたわけだから、負けを恐れずに実験的なネタにチャレンジすることもできるし、自分が負けることで番組自体を盛り上げることもできる。そういう考えに自分も変わっていったんで、エンターテインメントとしてすごくプラスになるアドバイスをしていただきましたね。
――武藤さん自身、昨年58歳にしてGHCヘビー級王者になったのもインパクトがありましたけど、丸藤正道選手に負けて王座陥落したときは、ムーンサルトプレスを解禁しながら負けることで、勝つこと以上のインパクトを残しましたからね。
神奈月 そういうことなんだろうと思いますね。それに武藤さんクラスになると、ベルトがあろうがなかろうがその地位は揺るがないじゃないですか。だからこそ、いろんなことができる。そういう武藤さんを見習って、僕もモノマネの世界で自分の存在感を維持しながら、いろいろ新しいことにチャレンジして、何年かしたらまたベルトを獲りに行くのも面白いかなって。それですべてをやりきったら、僕も武藤さんみたいに引退宣言しようかなって(笑)。