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「出産も絶望も超えて…」“史上最多19個のメダル”女王アリソン36歳が最後までレースにこだわった理由<世界陸上引退ラン>
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byGetty Images
posted2022/07/24 06:14
4×400m混合リレーで世界陸上最多の19個目のメダルを獲得したアリソン・フェリックス
最後の直線で、彼女は必死の形相で腕を振り、鉛のように重くなった足を動かしフィニッシュラインに駆け込んだ。
しゃがみ込み、肩で大きく息をする。
長い間、その場から動くことができなかった。
「東京五輪ですべてを出し切った」
最高の舞台で、持っている本当のすべてを出して最後の五輪を終えた。
「出産後、体が以前のように戻らなくて、やっとここまで走れるようになってきた。(東京五輪でも)1戦ずつ薄氷を踏むような状態でレースをしてきた。過去の大会では目標はいつもメダルだったので、決勝進出できるかどうかなんて考えたこともなかった。準決勝でスタートに立った時に『決勝に行けるかな。行けなかったらどうしよう』なんて思いもしなかった。準決勝はその先のメダルのためのレースだったから。そんな中で掴んだメダルは今までのメダルよりもずっとずっと重みがある」
すべてを出し切ったアリソンはとても美しかった。
「東京五輪ですべてを出し切った」
オフの期間に引退も考えた。しかし「最後に家族やファンの前で走って終わりたい」と思い直し、またトレーニングを開始した。
「ほとんどの選手がレースを終えた後に引退し、『引退レース』がないけれど、こういう大きな舞台で最後のレースができて感謝している」
レースにはご両親、兄、元陸上選手の夫、そして3歳半になるキャムリンちゃんも駆けつけた。
「マーミー、マーミー、マーミー」
キャムリンちゃんが大きな声で応援する。
「娘には自信を持って何事にも全力で挑戦して欲しい。そういう女性になってほしい」
その言葉を体現するような走りだった。
常に挑戦し、高みを目指して走り続け、輝き続けたスプリンター「アリソン・フェリックス」。
引退を淋しく思う人もいるかもしれない。でも同時代を生き、彼女の走りを見られた幸運を噛み締めたい。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。