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「出産も絶望も超えて…」“史上最多19個のメダル”女王アリソン36歳が最後までレースにこだわった理由<世界陸上引退ラン> 

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及川彩子

及川彩子Ayako Oikawa

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photograph byGetty Images

posted2022/07/24 06:14

「出産も絶望も超えて…」“史上最多19個のメダル”女王アリソン36歳が最後までレースにこだわった理由<世界陸上引退ラン><Number Web> photograph by Getty Images

4×400m混合リレーで世界陸上最多の19個目のメダルを獲得したアリソン・フェリックス

 2013年モスクワ世界陸上で200mのレース途中で肉離れを起こし、兄ウェスさんに抱えられてスタジアムを去っている。

 大好きな陸上に何度も裏切られ、失望し、でも陰で黙々と努力を重ね、表舞台では彼女はいつも颯爽と駆け抜けた。

「勝利は当然のことだと思っていた」

 30歳を超えてからは、若手の台頭もあり、勝てなくなる。

「いつも勝てる、勝利は当然のことだと思っていた。でもそうじゃないんだ、と気づかされた」

 個人種目で金メダルを取ったのは、2015年北京世界陸上が最後になった。

 リオ五輪は練習中の不慮の事故の影響もあり、400mで銀メダル、2017年ロンドン世界陸上は400mで銅メダルと、個人の金メダルが手にできなくなってきた。

 そして2018年に大きな転機が訪れる。11月に娘キャムリンちゃんを帝王切開で出産。

「体がなかなか戻らないし、眠れないし、休みなしでお世話しなきゃいけないし、きつかった」と振り返る。

 本人の苦悩を他所に、我々は「アリソンはスーパーウーマンだから、きっと大丈夫」「不可能を可能にする選手」と勝手に思い込み、期待していたように思う。アリソンは周囲からの期待、自分自身のプライドをかけ、何倍も努力をし、日々戦い、涙を流し、レースに臨んでいた。

「400mでは全力を出しきれないんだよね」

 200mから400mに種目変更した2015年頃、アリソンは首を傾げながら話してくれた。

 1600mリレーでは48秒台を叩き出し、ゴール後に立っていられないほどの疲労に襲われる。でも個人ではタイムもさほど伸びず、走り終わってもケロッとしている。余力を残したままフィニッシュすることが多かった。

「バトン持って走ったら?」

 そう応じると、「そうしようかな」と冗談とも取れない返事が返ってきた。

 レースの内容が大きく変わったのは出産を経た2019年くらいからだ。走り終わると倒れ込み、しばらく立ち上がれない。

 全てを出し切った証だった。

35歳で自身最高のレース

 35歳で出場した昨年の東京五輪の400mが自身最高のレースだった。

 決勝では自己ベストの49秒26にわずか0秒20及ばなかったが、49秒46という素晴らしい記録で銅メダルをもぎとった。

【次ページ】 「東京五輪ですべてを出し切った」

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