甲子園の風BACK NUMBER
「お父さん、ぼく横浜高校に行きたい」野球U-12日本代表が“熊本から越境入学” その時、両親は…「親元に置いておきたい気持ちはありましたが」
text by
樫本ゆきYuki Kashimoto
photograph byNanae Suzuki
posted2022/07/13 11:02
主将としてU-12でアジア制覇、U-15で世界一に輝いた星子天真主将(大阪桐蔭)は熊本で野球の礎を築いた
「嫁も寂しがっていましたし、親元に置いておきたい気持ちはありましたが、大成の人生だから。挑戦を応援してあげようと夫婦で話し合いました」
夏の神奈川大会を目前に控えたある日、熊本の家に初めて封筒で手紙が届いたそうだ。普段はLINEの短いやり取りが多いため「一体なんだろう、お小遣いのリクエストかな」と思ったが、違った。
「夏のメンバーから外れたという報告でした。最後に『もっと頑張って、お父さんと、お母さんを甲子園につれて行くよ』って書いてありました。この手紙は宝物ですね」
昔は感謝をうまく言葉にできないような子どもだった。それが横浜高に入学して以降、驚くような早さで成長している――。「いままでが野球のサポートでべったりだったから、いまは夫婦で土日にやることがなくて困っていたんです。手紙を読んだら、親も自立して、子離れしないといけないなと痛感しました」と憲士さんは笑った。高校野球を通じて、親も一緒に成長しているのだ。
◆◆◆
選ばれる高校――。その形に正解はないが、中学生が選ぶ理由は甲子園の戦績だけではない、ということは言えるだろう。家族の存在と「うちでは思い切ってファーストストライクを打てばいい」という一言から地元を選んだ村上宗隆。自分にとって「競争」が成長の源になることに気づき、熊本から神奈川へ越境入学を選んだ15歳の球児。
「自分で選んだ道に悔いはない」と胸を張れるような高校野球人生を送って欲しい。この夏もエールを込めて願う。