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[番記者は震えた]2022.4.10 完全試合ドキュメント
posted2022/06/02 07:02
text by
金子真仁(日刊スポーツ)Masahito Kaneko
photograph by
KYODO
大船渡高時代から佐々木を追う記者は、興奮の坩堝となった球場で何を書き、いかにその心を揺さぶられたのか。野球史に残る1日の、迫真の記録。
買ったばかりのアップルウォッチは、持ち主の健康状態を教えてくれる。スコアブックにスタメンを書き入れた4月10日、午後1時45分。佐々木朗希がシーズン3度目の先発マウンドへ向かう直前に、震動とともに〈心拍数が120を超えました〉と腕時計に表示された。何か興奮の予兆があったのだろうか。
ZOZOマリンに漂う空気はいつも通りだ。ロッテのブルペンは一塁側スタンド下、右翼寄りにある。試合開始の30分ほど前。ホワイトボードにオリックスのスタメンが書かれ、準備が始まる。ブルペン捕手の小池翔大がウオーミングアップに付き合う。
「いつもの朗希、いつもの試合と同じでしたね。特段、何かやるなっていうのもなかったです」
2年前の春、沖縄。多くの報道陣にブルペンを囲まれる中で、小池は黄金ルーキーと18.44mの空間を挟んで向き合った。
「それまでも球は見てましたけど、いざ捕るとなると、違う緊張感があるというか」
修徳学園中、常総学院高、青山学院大とアマチュアトップ級を全て見てきた捕手も認める、比類なき素質。だが、今年は手のひらへの強烈な圧が段違いだという。
「ベース板、打者の手元の球の強さを今年は特に感じます。同じシュート回転のボールでも、今までと手元の強さが全然違う。とにかく打者が打ちづらいというか、前に飛ばすことは困難なのかなと」