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「またお前か、ってため息が出る」鳥かごが“一番下手”なのに不動のレギュラー!? J1広島スピードスターMF藤井智也の“長所を伸ばす力”
posted2022/06/01 11:00
text by
安藤隆人Takahito Ando
photograph by
J.LEAGUE
2015年以来のリーグ優勝を目指すサンフレッチェ広島。開幕5戦未勝利(2敗3分)とスタートでこそ躓いたが、4月以降は6勝3分1敗と上昇気流に乗っている。今季は混戦模様が予想されるJ1だけに、いかにこの好調をキープできるかが、優勝争いに加わるカギを握っているだろう。
そんな好調のチームにおいてキーマンとなっているのが、攻撃陣で唯一リーグ戦全試合でスタメン出場を果たしているのが大卒2年目のスピードスター・藤井智也だ。3-4-2-1の右ウィングバックとして、今季から指揮を執るドイツ人ミヒャエル・スキッベ監督の信頼を勝ち取っている。
今季はまだ0ゴール・1アシストだが、数字には表れない貢献が光る。ボールを持つと常に迷いなく縦に仕掛け、緩急をつけたドリブルで右サイドを突破してクロスを供給。帰陣も速く、攻守が切り替わる瞬間にギアを入れてDFラインに戻るなど、90分通して高い運動量と爆発的なスピードを保ち続けている。
「J1の中でも一番下手だと思います」
今やチームに欠かせない存在となった藤井だが、トレーニングについて話が及んだ時、意外な言葉が飛び出した。
「足元の技術は広島、いやJ1の中でも一番下手だと思います。チームで鳥かご(1~2人のDF役を配置したボール回しの練習)やポゼッションゲームをやっていても、僕はいつもボールをロストしてしまうんです。みんなから『またお前か』ってため息が出るんですよ(笑)」
まるで新人選手がプロの洗礼を浴びたときに述べる言葉のようだ。自他ともに認める“下手っぴ”が、なぜ好調・広島で不動の存在になれたのか。
筆者が彼の最も優れている点を挙げるとすれば、それは「長所を磨く能力」だと思っている。このキーワードを紐解くために、少し彼のキャリアを遡ってみたい。