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《日本ダービー3年前の大波乱》12番人気、単勝9310円…なぜロジャーバローズは大本命・サートゥルナーリアに勝てたのか? 

text by

江面弘也

江面弘也Koya Ezura

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photograph byAFLO

posted2022/05/28 17:00

《日本ダービー3年前の大波乱》12番人気、単勝9310円…なぜロジャーバローズは大本命・サートゥルナーリアに勝てたのか?<Number Web> photograph by AFLO

2年前の日本ダービー。単勝1.6倍の大本命・サートゥルナーリアをおさえて、栄冠に輝いたのは12番人気のロジャーバローズだった

 理想的な展開だな、と鞍上の浜中俊は思っていた。ダービーは6回めになる浜中は冷静だった。自分で逃げることも考えたが、外枠(15番)のリオンリオンはスタートで勢いをつけないといけないので、速いペースで逃げることになるはずだ。その2番手を自分のペースで行くのは、レース前に描いていた最高のレースプランだった。調教に乗ってロジャーバローズの状態のよさを感じていたし、内心では一発狙っていた。

「ぼく、残ってますか?」

 厩舎には皐月賞馬のサートゥルナーリアがいたが、角居は、ロジャーバローズにもチャンスはあるかな、と思っていた。京都新聞杯では相変わらず内にもたれていたが、ダービーに向けて調教も強化し、馬の状態はアップしていた。バランスもよくなっていたし、体もしっかりしてきた。スプリングSのこともあるので、ゲートまで覆面を二重に被せていた。その効果もあったのか、馬は落ち着いていた。

 4コーナーを回って直線に向く。浜中がロジャーバローズを追いだす。スパートするにはすこし早いが、京都新聞杯に乗ったときに瞬発力より持久力で勝負する馬だと感じていたので、早めにセーフティリードをとっておきたかった。それができる手応えは十分にあった。ラスト400mをすぎて先頭に立った。外からダノンキングリーが勢いよく追い込んでくる。

(サートゥルは来ないな……)

(ロジャー、残ってくれ!)

 相反するふたつの思いが交差する角居の前で、ロジャーバローズとダノンキングリーが並ぶようにゴールを駆け抜けた。

 浜中は勝ったと思ったが、ダービーだけに確信がもてない。ゴールからしばらくして馬を止めると、近くにいたダノンキングリーの戸崎圭太にたずねた。

「ぼく、残ってますか?」

 戸崎が笑顔で握手してくれた。

 '19年5月26日。ロジャーバローズはダービー馬になった。勝ちタイムは2分22秒6。ダービーレコードだった。

日高の馬がダービーに勝った

 猪熊は馬主席のテレビでゴールのシーンを見ていた。10年前、はじめてのダービーでアントニオバローズが3着になったときには机を叩いて突き指するほど興奮したが、今回は人気がなかったせいか、あのときほどではなかった。それでも、勝ったとわかった瞬間、感極まった。周囲の先輩の馬主たちが「おめでとう!」と声をかけてくれた。表彰式のために下に降りていってからも、たくさんの人が祝福してくれる。

(ああ、ダービーって、すごいんだなあ)

 猪熊は思った。

【次ページ】 ロジャーバローズは夏に引退した

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