Number ExBACK NUMBER
消えない暴力、増える帰宅部…では本当に“学校と部活は切り離す”べきか? 中学野球の名将(現・仙台育英部長)は「趣旨には賛成。しかし…」
text by
菊地高弘Takahiro Kikuchi
photograph byTakahiro Kikuchi
posted2022/05/25 06:00
今年4月に仙台育英高校の野球部長に電撃就任した“中学野球のカリスマ”猿橋善宏氏(60歳)に「部活の今」を聞いた(写真は中学指導者時代の2018年撮影)
猿橋 そうです。だから本音を言うと、この企画は5年前にやってほしかった。もうこの流れは止められません。
――猿橋先生が部活の地域クラブ化で懸念している点はどこですか?
猿橋 まずは金銭的な負担が増える問題。移動手段の確保の問題。指導者の養成の問題。今までの部活だって指導者の問題が起きましたよね。地域クラブの指導者をどのように養成するのか、そして生活できるだけの報酬を供給できるのか。最大の問題は、学校から部活を取り除いた時に、彼らを人間的に成熟させるという役割を担い切れるのか。もちろん教育活動は組まれていますが、それをスペシャルな域まで精度を高めることは、部活を運営するよりはるかに難しいはずです。そのための計画がどこにもない。
“地域で子育て”という機運には「僕はならないと思います」
――学校から部活を切り離すにしても、問題が山積みだと。
猿橋 教員の負担を減らすという趣旨には大いに賛成です。しかしながら、現状は受け皿なき解体なわけですよ。普通、スムーズに移行するために受け皿を作ってから解体するじゃないですか。今は壊しながら作ろうとしている。
――ポジティブにとらえれば、今まで学校に何もかも頼っていた状態から、「地域で子どもを育てよう」という機運にならないでしょうか。
猿橋 僕はならないと思います。親はせっかく金を出すならと専門性を期待します。専門性もカテゴリー分けしないと、親の期待に応えられないでしょう。週末の娯楽としてプレーできればいい人、個別にスキルアップを求める人、育成選抜としてエリート選手に育ててほしい人。この3層に応えられる指導者を各地域で用意できるかというと、現状では難しいかもしれません。
◆◆◆
猿橋部長も熱弁したように、部活動での経験がその後の人生に大きく生きてくることは多くの人間が実感しているだろう。たとえ時代とともに形を変えようとも、チームの仲間と理念を共にして奮闘した日々は金では買えない体験になるはずだ。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。