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「もう一回やり直せ!」12歳息子は目の前で土下座を繰り返した…なぜ親は“暴力監督”を止められなかった?「全国大会に行けなくなる」
text by
島沢優子Yuko Shimazawa
photograph byGetty Images
posted2022/05/15 11:01
写真はイメージです。本文とは関係ありません
圭太はマネージャーに嫌だと言えず土下座を了解したものの、直前まで迷っていた。
「土下座とか、嫌や。でも、それをせんかったら、みんなも練習始めてもらわれへんし、ママが監督から怒られるやろ。僕、やるわ……」
まだ声変わりもしていない12歳の決意に、玲は胸がつぶれる思いだった。
「マネージャーの言葉は監督の言葉みたいに保護者に受け止められていた。だから彼女に反発したら何をされるかわからないと考えました。反発してきた人たちは、無視されたり仲間外れみたいになって。親が耐え切れなくて子どもをやめさせるケースもありました。なので、私にも(土下座を命じられた時は)卒団まであと半年だから何とかうまくやりたいっていう思いがありました」
玲が圭太に「嫌やったら、やらんでもいいねんで」と言うと、押し黙る。そこで玲が「どうする?」とまた聞き直す。
「どうする? って息子の意思を確認しているように見えますが、私からのパワハラですよね。(圭太にとって)やらないといけないってふうにしかとれないですよね。土下座とかとんでもない、やらなくていいと、なぜ言えなかったのか。後悔しています」
そのようなプロセスがあって、「あの事件」は起きた。
「なんでおまえだけせえへんねん!」鮮血がはじけ飛んだ
翌日の練習。体育館のパイプ椅子に腰かけたAのもとへ、圭太が駆け寄った。ガクンと膝を折り、手を床につけ首を垂れた。他の子どもたち6人が驚きの表情を見せながらもそれに続く。太郎も、拓海も、床に額をつけんばかりに土下座した。しかし、ひとり出遅れた子が、Aの逆鱗に触れてしまう。
「なんでおまえだけせえへんねん!」
首をつかまれ床にたたきつけられた。つかまれた時にAの爪に皮膚を切られたようで、首から血が流れてしまう。ワックスが塗られたピカピカの床に、鮮血がはじけ飛んだ。
けが人が出たにもかかわらず、しばらくするとAは「おまえら、さっきの(土下座を)、もう一回やり直せ」と命じたのだ。
「すみませんでした!」
圭太が小刻みに体を揺らしながら、額まで床につけて謝った。暴力をふるわれた男児はもちろんのこと、7人全員がピシっと床に頭を揃えて土下座した。そばには、椅子にのけぞったまま、子どもたちを見下ろすAの姿があった。
この光景を、真理は4人の親の中でただひとり見届けた。
「たまたまその日当番やったんです。ずっとそばにいて……。こんなこと許されへんって思いました。思ったけど、止められなかった」