しかし、9月2日は、それまでとは土下座をする相手が違った。さんざん暴言を吐いた挙句、自分に向かって土下座しろと言うのだ。

「子どもたち、何のために土下座しなくてはいけないのか。こんなこと、あり得ないですよね。そこでやっと目が覚めました。それまでは暴力とかがあっても、A監督は子どもが好きで、うちの子たちを勝たせるためにやってくれていると自分に言い聞かせていました。でも、それは違ってた。監督はただ自分が勝ちたいだけ。子どもは自分が勝つための駒。先生、すごいですねと評価されるための道具やった。こんな人に、もう子どもを預けられないと思いました」（沙季）

　全員が同じ意見だった。やめさせる決心をした彼女らは、Aに退団を告げた。Aがやってきたことはパワハラだということ。子どもの自尊心を傷つけていること。子どもを勝つための駒としてしか扱っていないことを、退団の理由として伝えた。

土下座指導に一切反省なし「3人に辞められるのは困るから」

　対するAは、土下座させたことが悪いと感じていないようだった。「土下座はひどすぎる」「異常だ」と親たちに非難されても、まったく悪びれた様子はなかった。

「3人に辞められるのは困るから僕は監督を降りる。今後はコーチに監督になってもらい、僕も暴言をやめるので考え直して欲しい」

　沙季らは、Aが監督を降りるかどうかが問題ではなく、指導方針にそぐわないのでやめたいと伝え退団届を提出した。Aと自分たちの毒に、ようやく気づけたのだ。

＜#3へ続く＞

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