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佐々木朗希が投げなかった最後の夏「聞きたかったんですけど…やめました」“仲間”と“怪物”の狭間で揺れた大船渡ナインの本音
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byAsami Enomoto
posted2022/04/24 06:00
2019年夏、岩手大会の決勝で登板を回避した大船渡・佐々木朗希。1年後、当時の仲間たちが語った“本音”とは?
「でも11月2日、僕の誕生日に……、あ、自分の方が1日早いんですけど、朗希が家にプレゼントを渡しに来てくれたんです。もうすぐ千葉に行っちゃうからって」
今野の大好きなカルピスウォーターと、ロッテのお菓子。ただそれよりも今野は、彼が仲間に戻ったようで嬉しかった。
「僕は怪我しないように頑張れよとだけ言いました。なんで投げなかったのか、聞きたかったんですけど……やめました」
不思議である。あの決勝以来、なぜ……という思いを抱えながら、及川も今野も、ついに佐々木にはそれを問わなかった。
その理由を及川はこう語った。
「監督と朗希のやり取りは僕らにはわからないですけど、本人も葛藤していたと思うんです。投げたい気持ちと。だから……」
卒業の日、佐々木は及川と最後のキャッチボールをして、部員ひとりひとりと写真を撮って、怪物としてではなく、大船渡高校の仲間として旅立ったという。
あの決勝がピークじゃない
あの日、心にできた淀みは消えていない。この先ずっと消えないかもしれない。もしそれを霧消させるものがあるとすれば、それは佐々木朗希の輝きなのだろうか。
「わからないですけど、多少は……。自分を含めみんなプロで活躍してほしいと思ってるんです。朗希には、あの決勝がピークじゃないってことを、押しつけがましいですけど、見せてもらえればと思います」
終始、伏し目がちだった及川のまなざしがようやく前を向いた。
【初出:Sports Graphic Number1008号(2020年7月30日発売)『佐々木朗希と大船渡ナインの未完の物語』より】
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