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「圧倒的に男子が強い」ボートレース界で遠藤エミ“女子初のSG制覇”はどれほどの偉業なのか? 現役記者「運だけでは100%勝てない」
posted2022/04/19 17:00
text by
山内翔太Shota Yamauchi
photograph by
Japan Motor Boat Racing Association
1952年に女性選手が初めてボートレーサーとして登録されて今年で70年になりますが、これまで誰ひとりとしてSG優勝者はいませんでした。付け加えるなら、女子レーサーがSGの予選をトップ通過したこと自体、初めての快挙です。記者目線からしても、「生きている間に見られたらいいなぁ」くらいの感覚でしたから、今でも少し信じられない気持ちです。
なぜ「女子はSGで勝てない」と言われていたのか
そもそも、なぜボートレースにおいて女子選手が不利とされているのか。一番の違いは旋回スピード、すなわち“ターン力”と言われる部分にあります。どんなに技術の高い女子でも、男子のトップレベルとは差があるのが現実です。スタートに関しては張り合える選手も少なくありませんが、筋肉量や体幹の強さが求められるターンは、やはりSGクラスの男性レーサーにはなかなか追いつけない。
ボートレースでは女子47kg、男子52kgという最低体重制限が設けられていますが、ターン力の大きな違いゆえ、単純に「エンジンの出力が同じなら、軽い女子選手の方が有利では?」というわけにはいかないのです。近年、男子のスキルやフィジカルのレベルが急激に上がっていることもあって、「男女の差が埋まるまでに何年かかるのだろう……」というのが関係者やファンの共通認識だったと思います。そんな状況だっただけに、遠藤選手のSG制覇の価値はなお際立ちます。
クラシックでの遠藤選手の勝因をあらためて振り返ってみると、まず非常にいいエンジンを引き当てたことが大きかった。ボートレースでは開催前に抽選を行い、各選手に期間中に使用するモーターが割り当てられるのですが、その優劣に関しては明確に運の要素があります。また、いいモーターを引いたあとの調整も非常に重要で、遠藤選手はそこを完璧に合わせてきた。体重の軽い女子がいいエンジンを引いて前を走る状態になれば、最強クラスの男子でも追い抜くのが難しいのがボートレースです。