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酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「パンチョ伊東さんに相談したら…」日本の元祖MLB愛好家・池井優(87歳/慶大名誉教授)が現地で見た“昭和の大リーグ事件史”
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byWataru Sato
posted2022/04/10 11:02
慶大の池井優名誉教授。日本に大リーグの面白さを伝えた第一人者だ
野球と政治の結びつきが面白いと感じたんです
池井:この年、メッツが混戦を勝ち抜いてナショナル・リーグ東地区の優勝を果たしました。西のチャンピオンのシンシナティ・レッズとプレーオフになりました。当時のレッズはピート・ローズ、ジョニー・ベンチがいるスーパースターのチームです。メッツは勝てるかなという思いで、ニューヨークでの第3戦を見に、シェイ・スタジアムに行きました。
ちょうどその時、第四次中東戦争が勃発した。スタジアムの入口に多くの人がいてシーツを広げて「イスラエルの平和を」と募金活動をしていたのが印象的です。ニューヨークはユダヤ教の勢力が強いですから、ニューヨーカーが5ドル、10ドルぼんぼん放り込んでいく。僕は“野球と政治の結びつき、なかなか面白いぞ”と思いましたね。ちなみに球場に入ると「Israel and Mets will win(イスラエルとメッツは勝つぞ)」という垂れ幕がありましたね(笑)。
その試合ではピート・ローズが一塁をまわって、次打者のゴロで二塁に滑り込み、メッツのショート、バド・ハレルソンもひっくり返って、しばらく起き上がれなくなる場面があったんです。スリーアウトチェンジになってピート・ローズがサードを守ると、ニューヨークのファンがものを投げるんですよね。かつての水原のリンゴ事件みたいなものです(笑)。
事態が収まらないので、メッツのエースだったトム・シーバーや、引退間近のウィリー・メイズが出てきて「頼むから物を投げないでくれ。俺たちに試合させてくれ」と声をかけて、ようやく収まりました。
翌日のニューヨーク・タイムズが洒落ていました。「メッツ平和使節団成功す」、「国連はメッツにならえ」なんて見出しでね(笑)。こういう出来事を全部メモしましたね。
メッツで出会った“謎の名物プラカードおじさん”
池井氏はこのとき、メッツのシェイ・スタジアムの名物男にも取材したそうだ。
池井:シェイ・スタジアムには「プラカードおじさん」という有名な方がいたんです。
いつも球場に来て、しゃれた文句のプラカードを掲げてお客さんをゲラゲラ笑わせている。
例えば、相手投手が3回くらいにノックアウトされると「Leaving so soon?(もういなくなるの?)」とか、2、3番手も打たれて、内野手全員が集まると、「Talk,talk,talk(おしゃべりばっかり)」。4番手投手がブルペンバギーに乗ってマウンドに来ると「Keep the motor running(エンジンはかけっぱなしにしとけよ)」とかね(笑)。面白いなと思って、その人を日本料理屋へご招待して話を聞きました。