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《単独インタビュー》村田諒太36歳が明かした、ゴロフキン戦直前の“意外な本音”「情けない自分も見えてくる。ただ面白い」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byKentaro Miyazaki
posted2022/04/08 11:02
4月9日、ついにゴロフキンとの決戦を迎える村田諒太が現在の心境を明かした
衝撃にびくともしない重心とバランスを保ちつつ、プレッシャーを掛けて前に出て強いパンチを打ち込む。その己の戦い方というものを、実戦中心のトレーニングで磨き上げていく日々を送ってきた。
「調子が良いとか悪いとかじゃないんですよね。延期になってからちゃんと自分のベースをつくれているなって感じがある。もちろんそのなかで良い悪いっていう波はあるんですけど、その次元を超えたところで(ボクシングの)ベースをしっかりつくることができた。だから自分のボクシング自体、ずっと凄くいい状態を続けられているんです」
メンタル維持がカギに「正当に落ち込める」
ボクシングはいい、体の状態もいい。あとはメンタルをどのように維持していくことができるか、だ。
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ゴロフキンとのメガマッチにあたって、これまでもメンターの一人として折に触れてコンタクトを取ってきたソウル五輪シンクロ・デュエットのメダリストでメンタルトレーニング指導士の田中ウルヴェ京氏にセッションを依頼した。
当初はメガマッチに臨む自分のメンタルの“実録”を残すことが、次に続く後進のためになるという考えから始めたもの。だが延期が決まって己の感情が揺さぶられるなか、「己のため」に色合いが変わった。
「ウルヴェさんから、人間には“喪失期間”というものがあると教えられました。喪失に対して初めは頑張る気になるんですけど、現実を知って次は落ち込むそうです。そんなときに『今はそういう時期だから』と言われると、落ち込んでいいんだって思える。そう捉えることができたら、沈んでいくことはなくなるんです。
そして『ここからは人による』とも。頑張ろうという気になる人もいれば、そうならない人もいる。ただ落ち込む時期があるんだと知っただけで、正当に落ち込めるというか。落ち込んでいる自分がダメだとか、弱いとか、そう思ってしまうと“ネガティブ・ループ”になってしまう。それがなかっただけでも凄く大きなことでした」
「情けない自分も見えてきますから」
すぐさま「しゃーない」にたどり着いたわけではなかった。喪失感に襲われ、一度はひどく落ち込みながらもネガティブの沼にはまらずに済んだ。それが真実だった。
聞き役に回る田中さんが村田の心情をホワイトボードに書き出し、それらを可視化していくことで自分が見えてくるという。
「自分と向き合うのでしんどいところもありました。情けない自分も見えてきますから。ただ面白いとも感じています」
試合が決まっていないのに、心と体を仕上げていくのはまったくもって容易じゃない。どこかサッパリとした笑みはそのミッションを乗り越えてきた証でもあった。