象徴的なのは高知戦で見せた攻撃だ。

　初回1アウト二、三塁。打席には身長182センチ、体重75キロの主砲・下川辺隼人。1ストライクからの2球目。尾崎監督が選んだ策は、セーフティスクイズだった。下川辺はピッチャー前に転がすと、無警戒だった相手のミスも重なって2点を先制したのだ。

下川辺のセーフティスクイズ　©Kyodo News

　高知が投手交代した直後の5回、先頭の萩野颯人が1ボール1ストライクからセーフティバントを決める。続く1番・斎藤は初球をバント。相手のエラーを誘って一、三塁とチャンスを広げると、2番・上田太陽も初球をバント。3者連続のバントで1点を追加した。尾崎監督は「相手は、うちのチームの打撃を警戒している印象を受けました。相手投手を崩す方法を考えて、選手が思い切りプレーした結果です」と納得した。

試合中も「うるさいくらい」のコミュニケーション

　尾崎監督は選手たちと試合中、「うるさいくらい」コミュニケーションを取っているという。

　イニングごとにベンチでミーティングを行い、選手が守備位置を変えれば「その場所でいい」と合図を送る。「選手たちは『監督黙ってよ』と思っているかもしれませんね」。指揮官は笑うが、チームが進んできた方向性が間違っていなかったと聖地で証明した。

　甲子園で得た確かな成果。國學院久我山は試合を重ねるたびに自信を深めていった。そして、ナインを後押ししたのが元マリナーズ・イチロー氏の存在だった。昨年11月に直接指導を受け、こう言葉をかけられたという。

「國學院久我山のスタイルが好き。考える野球は素晴らしい」

國學院久我山の選手に走塁の指導をするイチロー（2021年11月）　©Kyodo News

進学校で平日の練習は3時間ほど、グラウンドも共用だが

　学校のホームページによると、國學院久我山は2021年度に東大、京大をはじめとした国公立大合格者が66人（現役46人）、早稲田大・慶応義塾大、上智大、東京理科大といった難関私学の合格者が182人（同133人）と、都内有数の進学校だ。それと同時に6年前にはサッカー部が全国高校サッカー選手権で準優勝し、ラグビー部も関東有数の強豪校として知られている。

　そんな國學院久我山には部活動の制限がある。

　平日に練習できるのは2時間半から3時間ほど。グラウンドは他の運動部と共用で、目いっぱいノックはできない。私立といっても甲子園常連校ほど恵まれていない環境だからこそ、時間と場所を最大限に活用した。

　投内連携やティー打撃など、グループに分かれて練習に無駄な時間が生まれないよう工夫。グラウンド外でもできる相手チームの分析に力を入れた。考える力は磨かれ、甲子園の舞台でも最大の武器となった。

　大阪桐蔭の壁は越えられなかった。だが、本当の勝負は先にある。

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